「コロナの影響で収入が減少してこれまでどおりの家賃が払えない、賃料を減額して欲しい。」
賃貸マンションの入居者からこんなことを言われた、または知り合いの大家さんから似たような話を聞いたことはありますか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響は各業界に拡がっていますが、多聞に漏れず、不動産業界にも様々な影響が生じています。
今回は特に、入居者からの賃料減額の求めに関連して、大家さんが入居者に案内すべき家賃補助制度やコロナ禍に有用な税制度についてご紹介します。
コロナ禍で収入が減少してしまったという入居者の窮状に鑑みれば、救いの手を差し伸べてあげたくなる心情も理解できます。
しかし、賃料を減額するにしても、具体的にいくらに減額するのか、書面の取り交わしが必要か、取り交わす書面の内容をどうするか、減額した賃料をどのタイミングで元に戻すのか、他の入居者とのバランスはどうするのかといった問題もあり、安易な賃料減額は後のトラブルの元となります。
そこで、入居者や管理会社から言われるまま賃料を減額する前に、まずは国や地方公共団体の「家賃補助制度」が活用できないか、検討しましょう。
また、最終的に賃料減額に応じることになった場合でも、減額分を損金処理するなど、利用可能な税制度がいくつかあります。
以下では大家さんが入居者に案内すべき家賃補助制度と、コロナ禍に有用な税制度をそれぞれ3つずつ紹介します。
※令和2年10月22日時点の情報です。
1.賃料の減額その前に!入居者に案内すべき3つの家賃補助制度
まずは、コロナ禍で収入が減少して家賃の支払いに困っている入居者に案内すべき家賃補助制度について見ていきましょう。
1-1.事業者のための家賃補助制度 ― 家賃支援給付金
まず、事業者のための家賃補助制度として、経済産業省が主催する「家賃支援給付金」があります。
この「家賃支援給付金」は、売上の減少に直面する事業者の事業を下支えするため、地代家賃の負担軽減を目的とする給付金で、令和2年7月15日から申請受付が開始されています(受付終了は令和3年1月15日)。
給付金は、法人に最大600万円、個人事業主に最大300万円の家賃を、一括支給する、というものです。
給付対象者や給付金の具体的な算定方法についての詳細は、下記リンクをご参照下さい。
同じく経済産業省が主催する持続化給付金(法人最大200万円、個人事業主最大100万円)については、9月28日時点で4.4兆円が給付されており多くの方が利用されていますが、「家賃支援給付金」については、予算約2兆円が計上されているもの、9月10日時点での給付実績はわずか5%程度の990億円に過ぎません。
財源は同じ税金ですから、利用しないと損ですね!
この給付金の申請締め切りは令和3年1月15日までですので、売上が減少して家賃の支払いに困っている事業者の方には積極的にこの給付金を案内し、可能な限り家賃収入を確保しましょう。
1-2.個人のための家賃補助制度 ― 住居確保給付金
次に、個人の方が給付対象となる家賃補助制度として、厚生労働省が主催する「住居確保給付金」があります。
「住居確保給付金」は、新型コロナウイルス等の影響による離職・廃業・休業が原因で生活が困窮している個人を支援するため、市区町村の定める上限額を限度に実際の家賃額を原則3カ月分(延長2回最大9カ月分)支給する制度で、支給された給付金は、大家さんないし管理会社へ直接支払われます。
支給対象要件や支給上限額等については、下記リンク先をご参照下さい。
1-3.都道府県ごとの家賃補助制度
先述の「家賃支援給付金」及び「住居確保給付金」は、いずれも国が主催する給付金ですが、各地方公共団体が主催する家賃補助制度もあります。
1-3-1.東京都の家賃補助制度
たとえば、東京都が主催する「東京都家賃等支援給付金」は、国の「家賃支援給付金」に独自に上乗せ給付(3カ月分)を実施するものです。
申請書類も国の給付金と重なるものが多いので、東京都の事業者の方の場合は、国の給付金と併せて申請準備をするといいですね。
具体的な内容については下記リンクをご参照下さい。
1-3-2.埼玉県の家賃補助制度
また、埼玉県では、東京都と同じく「家賃支援給付金」の上乗せ(申請期間:令和2年8月7日~令和3年2月15日)のほかに、家賃を減免した大家さんに対する支援金(支援額:減免額の5分の1(賃貸人につき上限20万円)申請期間:令和2年7月17日~令和2年11月16日)も給付しています。
詳細は、下記リンクをご参照下さい。
1-3-3.各市区町村の家賃補助制度
さらに、市区町村レベルでも入居者向け、大家さん向け、それぞれ家賃補助制度がありますので、入居者がお住まいの自治体で使える補助金がないか、探してみてください(ほとんどの給付金には期限がありますので、申請受付期限にお気を付けください)。
以下は、ほんの一例です。
・東京都新宿区
新宿区内の店舗等の家賃について、減額した金額の二分の一を助成。
- 助成上限額:1つの物件に、月額50,000円
- 対象月:令和2年4月から令和3年3月分まで(全12か月分)
- 物件数:1人の賃貸人につき、ひと月あたり5物件まで
・埼玉県八潮市
令和2年8月から令和2年10月までの3カ月の家賃のうち、減額した金額の80パーセントを助成(申請期限:令和2年10月30日)。
2.知らないと損をする!大家さんがコロナ禍に使える3つの税制度
次に、給付金等の直接的な家賃補助とは別に、コロナ禍の減収を理由に家賃を減免した場合の損金処理、国税の納付猶予や、固定資産税等の減免等、損害を最小限に抑えるために有用な税制度についても簡単にご紹介します。
2-1.コロナ禍の減収を理由に家賃を減免した場合、損金処理が可能です
税務上、企業が賃貸借契約を締結している取引先に対して賃料の減額を行った場合、賃料を減額したことに合理的な理由がなければ、差額については原則として相手方に対して寄付金を支出したものとして取り扱われます(法人税法22条3項、4項、同法37条)。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、入居者が新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難となり賃料を減免した場合、その免除による損害の額を税務上の損金として計上することが可能であることが明確化されました。
詳細は下記リンク先の FAQ (26ページ)「5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係(問4.賃貸物件のオーナーが賃料の減額を行った場合)』をご参照ください。
国税庁『国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 』
2-2.最大1年間国税の納付を猶予できます
新型コロナウイルス感染拡大の影響により事業収入に相当の減少があった場合、税務署に申請し、担保不要で延滞税もかからずに1年間、国税の納付を猶予することができます。詳細は、下記リンク先をご参照下さい。
2-3.固定資産税及び都市計画税が減額できます
新型コロナウイルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合、中小事業者・個人事業主の事業用建物や設備の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が、事業に係る収入の減少幅に応じ、ゼロまたは1/2になります。
不動産所有者等が賃料支払いを減免した場合や、書面等により一定期間の賃料支払いを猶予した場合も収入の減少として扱われます。
詳細は、下記リンク先、経済産業省「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」内の『第6章 税・社会保険・公共料金【税の申告・納付】(65~72ページ)』をご覧ください。
経済産業省「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
3.まとめ
いかがでしたか?
読者の方、または知り合いの大家さんの方が使えそうな家賃補助制度・税制度は見つかりましたでしょうか。
今回は家賃補助・税制度それぞれ3つを紹介しましたが、この他にも具体的な状況によって利用可能な制度があります。
こうした制度知識のない管理会社は、入居者から新型コロナウイルスの影響による家賃減額の話があると、伝書バトのようにそれを大家さんに伝え、減額を前提とした金額の交渉に入ってしまいます。
補助金等の制度を把握して制度利用を促すなどの交渉ができ、止む無く減額するにしても損害を最小限に抑えるために利用可能な税制度を案内してくれるような管理会社を選び、コロナ禍を乗り切りたいですね!
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