
減価償却とは、固定資産(土地以外)の購入費用を耐用年数に合わせて分割し、毎年経費として計上する会計上の手続きです。
木造アパートの減価償却は、不動産投資における節税やキャッシュフローに大きく影響する重要なポイントです。居住用と業務用では耐用年数の考え方が異なり、同じ保有期間でも売却時の不動産譲渡税が異なります。
また、投資対象として新築アパートと中古アパートの購入を検討する際も、減価償却できる期間や費用が異なるため、節税効果や出口戦略に大きな違いが出ます。
本記事では、初めての不動産投資を検討されている方から既に物件を保有されているオーナー様まで役立つ内容をまとめています。ぜひ参考にしてください。
- 木造建物の減価償却と耐用年数の基本
- 木造建物の「居住用」と「業務用」の法定耐用年数の違い
- 中古木造建物の節税効果とリスク
- リフォーム・大規模修繕した場合の減価償却の考え方
- 減価償却とキャッシュフローの関係
建築会社の比較、検討に便利なのでぜひご活用ください。
目次
1.木造建物の減価償却と耐用年数の基本
最初に、木造建物の減価償却と法定耐用年数の基礎知識について解説します。
1-1.減価償却とは【会計上の手続き】
減価償却とは、土地以外の取得原価をその使用する各期間に費用として計上し、固定資産の価値を減少させていく計算手続きのことです。
減価償却の計算手続によって生じる費用のことを減価償却費と呼びます。
減価償却は、現実の建物価値とは異なり、あくまでも会計上の考えに基づき機械的に行う計算です。
まず、会計上、土地は年数が経過しても価値が下がらないと考えます。
現実には、土地は景気が悪くなると値下がりしますが、会計上は土地の価値はずっと変わらないという考え方を採用しています。
よって、土地の減価償却計算は不要です。
一方で、会計上、建物は年数が経過すると価値が下がると考えます。
実際には十分使える建物であっても、会計上は建物の価値は少しずつ目減りしていくという考え方を採用しています。
よって、購入した建物の資産価値を下げるために、建物は減価償却計算を行う必要があるのです。
減価償却費は、建物資産を減らすために発生する会計上の「つじつま合わせの費用」となります。
例えば、100万円の現金を持っている人が、毎年10万円ずつのお金を費用として使うと、現金という資産が10万円ずつ減っていきます。
つまり、「費用を計上すると資産が減る」という法則があります。
一方で、100万円の資産価値がある建物を、毎年10万円ずつ減らしたいとします。
建物価値を減らす理由は、建物は会計上、年数が経過すると価値が下がると考えているためです。
「費用を計上すると資産が減る」という法則があることから、つじつま合わせで10万円という費用を計上すれば建物価値を減らすことができます。
このつじつま合わせの費用が減価償却費に該当します。
減価償却費は、あくまでも建物価値を減らすという会計上の考え方を実現するために生じた計算上の費用です。
費用という名称は付いていますが、実際に支出が伴うわけではなく、計算上生じているだけの数字である点がポイントです。
1-2.居住用と業務用の法定耐用年数の違い
木造の法定耐用年数は、居住用(非業務用)が「33年」、業務用が「22年」です。
木造およびその他の構造の居住用と業務用の法定耐用年数は下表の通りです。
構造 | 居住用 | 業務用 |
---|---|---|
木造 | 33年 | 22年 |
木造モルタル | 30年 | 20年 |
鉄骨造(3mm以下) | 28年 | 19年 |
鉄骨造(4mm超) | 40年 | 27年 |
鉄筋コンクリート造 | 51年 | 34年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 70年 | 47年 |
居住用(非業務用)とは、マイホームや別荘、相続した実家等の事業の用に供していない建物のことを指します。
一方で、業務用(事業用)とは、木造アパートや戸建て賃貸、店舗、事務所等の事業の用に供している建物のことです。
居住用の法定耐用年数は、業務用の法定耐用年数の1.5倍に設定されており、居住用建物はゆっくりと時間をかけて償却できるようになっています。
居住用の法定耐用年数が長いのは、政策的な配慮によります。
居住用の法定耐用年数を長くすることで、個人がマイホーム等を売却したときになるべく税金を発生させないようにすることが理由です。
個人が不動産を売却したときは、譲渡所得が生じると税金が発生します。
譲渡所得とは、以下の計算式で求められるものです。
譲渡所得 = 譲渡価額※1 - 取得費※2 - 譲渡費用※3
※1譲渡価額とは売却価額です。
※2取得費とは、土地については購入額、建物については購入額から減価償却費を控除した価額になります。
※3譲渡費用は、仲介手数料や印紙税、測量費など、売却に要した費用のことを指します。
土地は購入額ですが、建物は購入額から減価償却費を控除した価額となるため、以下のような計算式で求められます。
取得費 = 土地購入価額 + (建物購入価額 - 減価償却費)
居住用の不動産は耐用年数が長いことで、時間が経っても建物の資産価値が減りにくくなっています。
同じ築年数でも事業用よりも居住用の方が取得費は大きく残るため、居住用の方が譲渡所得は小さくなります。
税金は譲渡所得に税率を乗じて求めることから、譲渡所得が小さくなる居住用の方が税金も少なくなるという仕組みです。
個人がマイホームを売却した際、多額の税金が生じてしまうと負担が大きいため、政策的配慮によって居住用は業務用よりも耐用年数が1.5倍長く設定されています。
1-3.法定耐用年数と物理的・経済的耐用年数の違い
耐用年数には、法定耐用年数以外に「物理的耐用年数」と「経済的耐用年数」と呼ばれるものがあります。
それぞれの意味は下表の通りです。
耐用年数の種類 | 意味 |
---|---|
法定耐用年数 | 減価償却費を計上できる会計上の期間のことです。建物構造によって法律で年数が定められています。 |
物理的耐用年数 | 経年劣化や自然損耗等により、物理的に建物が利用できなくなる年数のことを指します。建築技術の向上により物理的耐用年数は長期化しています。 |
経済的耐用年数 | 経済的価値が生じている期間の年数になります。物理的に利用できても、デザイン性や仕様が古くなることで価値がなくなる年数のことを指します。 |
木造建物の法定耐用年数は業務用で22年ですが、物理的耐用年数は一般的には40~50年程度になります。
ただし、古民家が存在するように築100年以上であっても利用できる木造建築は多いです。
木造一戸建て住宅の経済的耐用年数は、一般的には25年となります。
不動産会社は築25年で建物価値をゼロ円と査定することが多いです。
銀行は、木造建物の担保価値を築20年でゼロ円と評価します。
また、木造住宅は、築20年を超えると購入者が住宅ローン控除や登録免許税の軽減等を利用できなくなることから、築20年で市場価値が大きく下がります。
2.【用途別】木造建物の減価償却費の計算方法
この章では、「減価償却方法」について解説します。
2-1.居住用(マイホーム等)の計算方法と具体例
居住用建物の減価償却は、以下の計算式を用います。
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
木造の場合、償却率は耐用年数が33年に相当する「0.031」を用います。
経過年数は、築年数ではなく、所有期間のことです。
経過年数の計算ルールは、6ヶ月以上の端数が出た場合は1年と計算し、6ヶ月未満の端数が出た場合は切捨てとなります。
(償却期間の計算例)
1996年3月~2019年6月・・・23年3ヶ月は「23年」として計算
2001年2月~2019年10月・・・18年8ヶ月は「19年」として計算
経過年数は築年数ではなく所有期間であるため、例えば築15年の中古住宅を購入し、5年間保有した場合には経過年数は20年ではなく「5年」で計算するということです。
また、建物価値はゼロ円まで償却はされず、「建物購入額の5%」となる部分で減価償却計算は止めて良いことになっています。
「0.031」の償却率を用いると、「建物購入額の5%」となるには「34年+α」の期間の償却が必要です。
居住用の場合、「建物購入額の5%」となるまで償却するため、法定耐用年数の「33年」よりも少し長い期間の間で減価償却を行うことになります。
建物取得費が「建物購入額の5%」まで達すると、後は何年経過しても建物取得費は「建物購入額の5%」のままであり、それ以上、減価償却によって建物取得費を減らす必要はありません。
居住用の場合、「建物購入額の5%」を残価として残すことで、古い建物でもなるべく税金を生じないように配慮がなされているのです。
- 建物の購入価格(新築):3,000万円
- 購入から20年後に売却
この事例の減価償却費は次のとおりです。
減価償却費 = 3,000万円 × 0.9 × 0.031 × 20年 = 1,674万円
売却時の譲渡所得を計算する際には、譲渡所得から建物の取得費を控除することができます。この事例では、購入時の建物価格である3,000万円ではなく、減価償却費(1,674万円)を差し引いた1,324万円を取得費として譲渡所得から控除します。
2-2.業務用(アパート等)の計算方法と具体例
2007年(平成19年)4月1日以降に取得した業務用建物は「新定額法」と呼ばれる計算方法により減価償却計算が行われます。
また、2016年(平成28年) 4月1日以降に取得した建物付属設備および構築物については、定率法と呼ばれる償却方法が廃止され、定額法に一本化されています。
よって、この節では新定額法に絞って計算方法を解説します。
業務用建物の減価償却方法(新定額法)は以下の通りです。
減価償却費 = 建物購入価額 × 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
新定額法では、耐用年数に応じて下表の償却率を利用することが定められています。
業務用の木造の新築建物の法定耐用年数は22年であったことから、新築建物であれば「0.046」を用います。
【新定額法の償却率】
耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年 | 16 | 0.063 | 31 | 0.033 | 46 | 0.022 | ||||
2 | 0.500 | 17 | 0.059 | 32 | 0.032 | 47 | 0.022 | |||
3 | 0.334 | 18 | 0.056 | 33 | 0.031 | 48 | 0.021 | |||
4 | 0.250 | 19 | 0.053 | 34 | 0.030 | 49 | 0.021 | |||
5 | 0.200 | 20 | 0.050 | 35 | 0.029 | 50 | 0.020 | |||
6 | 0.167 | 21 | 0.048 | 36 | 0.028 | 51 | 0.020 | |||
7 | 0.143 | 22 | 0.046 | 37 | 0.028 | 52 | 0.020 | |||
8 | 0.125 | 23 | 0.044 | 38 | 0.027 | 53 | 0.019 | |||
9 | 0.112 | 24 | 0.042 | 39 | 0.026 | 54 | 0.019 | |||
10 | 0.100 | 25 | 0.040 | 40 | 0.025 | 55 | 0.019 | |||
11 | 0.091 | 26 | 0.039 | 41 | 0.025 | 56 | 0.018 | |||
12 | 0.084 | 27 | 0.038 | 42 | 0.024 | 57 | 0.018 | |||
13 | 0.077 | 28 | 0.036 | 43 | 0.024 | 58 | 0.018 | |||
14 | 0.072 | 29 | 0.035 | 44 | 0.023 | 59 | 0.017 | |||
15 | 0.067 | 30 | 0.034 | 45 | 0.023 | 60 | 0.017 |
業務用の不動産の場合、減価償却は建物価格が1円になるまで行われます。
居住用には建物の残価を「建物購入額の5%」は残せるという政策的な配慮がありましたが、業務用建物に関しては政策的な配慮はなく1円まで償却することになります。
つまり、業務用建物の方が売却時の取得費が小さくなり、譲渡所得が大きく計算されて税金も高くなるということです。
同じ築年数であっても、例えば「マイホーム」よりも「戸建て賃貸」を売却した方が、売却時の税金は高くなる傾向にあります。
【業務用建物の減価償却費シミュレーション】
業務用建物(木造)の減価償却費を具体例で見てみましょう。
- 建物の購入価格(新築):3,000万円
- 購入から20年後に売却
業務用建物の減価償却費の計算では「新定額法」が用いられ、木造建物の償却率は「0.046」となります。また、業務に供された月数は、20年×12か月=240か月です。これを基に減価償却費を計算すると次のようになります。
減価償却費 = 3,000万円 × 0.046 × 240か月 ÷ 12 = 2,760万円
業務用建物を売却する際の譲渡所得を計算する場合も、建物の取得費として計上できるのは、3,000万円-2,760万円=240万円となります。
このように、同じ価格の新築木造住宅を購入した場合でも、居住用では1,324万円控除できたところ、業務用は240万円しか控除できない ため譲渡所得が多くなり、税負担が増えます。
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3.【ケース別】中古木造物件の耐用年数と減価償却計算
この章では、木造の中古物件を購入したときの減価償却方法について解説します。
3-1.居住用中古物件の場合
居住用建物の場合には、新築を購入しても中古を購入しても減価償却は同じ計算方法を用います。
計算式は以下のものを用い、木造の場合、償却率は新築であっても中古であっても「0.031」を用います。
減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
居住用建物では、購入時に築何年目であろうと関係なく、購入した時点から法定耐用年数33年に相当する償却率の「0.031」を用いて「建物購入額の5%」となるまで償却できることになっています。
居住用建物の場合は「税金をなるべく生じさせない」という配慮があることから、本来の会計上の減価償却の概念とは異なる計算方法となっています。
本来の会計上の減価償却は、「築年数」が古くなるほど価値が下がるという概念がベースとなっていますが、居住用建物の場合、過去の築年数は全く考慮がなされずに新築と同じ計算方法が行われます。
居住用建物の経過年数は築年数ではなく所有期間ですので、築何年の中古建物であっても、木造であれば「0.031」の償却率を用いて単純に所有期間で減価償却計算を行うことになります。
3-2.業務用中古物件の場合
中古アパートのような中古の業務用建物は、一定の築年数が経過しているため、あと何年の耐用年数が残っているか残存する耐用年数を求めることが必要 です。
残っている耐用年数のことを残存耐用年数と呼びます。
残存耐用年数の求め方には、「法定耐用年数を満了しているケース」と「法定耐用年数を満了していないケース」で異なる計算方法を用います。
それぞれの耐用年数の求め方は下表のとおりです。
業務用建物の木造は法定耐用年数が22年ですので、22年が計算の基準となります。
経過年数の状況 | 求め方 |
---|---|
法定耐用年数を満了しているケース | 法定耐用年数 × 0.2 |
法定耐用年数を満了していないケース | 法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2 |
2. 中古木造物件投資の比較表
購入物件 | 購入価格 | 耐用年数 | 減価償却費 |
---|---|---|---|
①新築アパート | 6,000万円 | 22年 | 約272万円 |
②中古アパート(築15年) | 5,000万円 | 10年※1 | 500万円 |
③中古アパート(築25年) | 3,600万円 | 4年※2 | 900万円 |
例えば築25年の中古木造アパートを購入したときは、「法定耐用年数を満了しているケース」に該当します。
それに対して、築15年の中古木造アパートを購入したときは、「法定耐用年数を満了していないケース」に該当するということです。
築25年の木造物件を購入したときの耐用年数は以下のようになります。
木造中古物件の耐用年数 = 法定耐用年数 × 0.2
= 22年 × 0.2
≒ 4年(端数は切り捨て)
また、築15年の木造物件を購入したときの耐用年数は以下のとおりです。
木造中古物件の耐用年数 = 法定耐用年数 - 経過年数 + 経過年数 × 0.2
= 22年 - 15年 + 15年 × 0.2
= 22年 - 15年 + 3年
= 10年
耐用年数を求めたら、以下の償却率表に基づき、耐用年数に対応する償却率を用います。
【新定額法の償却率】
耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | 耐用年数 | 償却率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年 | 16 | 0.063 | 31 | 0.033 | 46 | 0.022 | ||||
2 | 0.500 | 17 | 0.059 | 32 | 0.032 | 47 | 0.022 | |||
3 | 0.334 | 18 | 0.056 | 33 | 0.031 | 48 | 0.021 | |||
4 | 0.250 | 19 | 0.053 | 34 | 0.030 | 49 | 0.021 | |||
5 | 0.200 | 20 | 0.050 | 35 | 0.029 | 50 | 0.020 | |||
6 | 0.167 | 21 | 0.048 | 36 | 0.028 | 51 | 0.020 | |||
7 | 0.143 | 22 | 0.046 | 37 | 0.028 | 52 | 0.020 | |||
8 | 0.125 | 23 | 0.044 | 38 | 0.027 | 53 | 0.019 | |||
9 | 0.112 | 24 | 0.042 | 39 | 0.026 | 54 | 0.019 | |||
10 | 0.100 | 25 | 0.040 | 40 | 0.025 | 55 | 0.019 | |||
11 | 0.091 | 26 | 0.039 | 41 | 0.025 | 56 | 0.018 | |||
12 | 0.084 | 27 | 0.038 | 42 | 0.024 | 57 | 0.018 | |||
13 | 0.077 | 28 | 0.036 | 43 | 0.024 | 58 | 0.018 | |||
14 | 0.072 | 29 | 0.035 | 44 | 0.023 | 59 | 0.017 | |||
15 | 0.067 | 30 | 0.034 | 45 | 0.023 | 60 | 0.017 |
築25年の物件の残存耐用年数は4年でしたので「0.250」を用います。
また、築15年の物件の残存耐用年数は10年でしたので「0.100」を用いるということです。
それぞれの償却率を求めたら、以下の業務用建物の減価償却計算の式で減価償却費を計算します。
減価償却費 = 建物購入価額 × 償却率 × 業務に供された月数 ÷ 12
業務用建物は、居住用建物とは異なり、過去の築年数を引きずるという点がポイントです。
業務用建物の減価償却方法は、築年数が経過すると価値が下がるという本来の会計上の減価償却の概念と近いといえます。
3-3.中古木造物件投資の節税とリスク
投資物件を選ぶにあたって、中古物件は新築物件より節税効果が高くなる点がメリットです。例として、次の3つのパターンで減価償却費を比べてみましょう。
- パターン①:6,600万円で新築アパートを購入
- パターン②:5,000万円で築15年の中古アパートを購入
- パターン③:3,600万円で築25年の中古アパートを購入
木造新築アパートの耐用年数は22年です。パターン②の中古木造アパートは法定耐用年数を超えていませんが、パターン③ではすでに法定耐用年数を超えています。そのため、それぞれの耐用年数と減価償却費は、次のようになります。
購入物件 | 購入価格 | 耐用年数 | 減価償却費 |
---|---|---|---|
①新築アパート | 6,000万円 | 22年 | 約272万円 |
②中古アパート(築15年) | 5,000万円 | 10年※1 | 500万円 |
③中古アパート(築25年) | 3,600万円 | 4年※2 | 900万円 |
※1(22年-15年)×15年×0.2で算出
※2 22年×0.2で算出(小数点以下は切り捨て)
このように、中古木造アパートの場合、新築と比べて毎年経費計上できる減価償却費が多い分、高い節税効果を得られます。ただし、中古木造アパートの耐用年数は短く、減価償却できる期間も短い点には注意が必要 です。
また、築年数が経過したアパートは、流動性のリスクを考えておくことが重要です。法定耐用年数を過ぎた中古アパートは、融資を受けることが難しい、あるいは築年数の経過によって設備が古くなったことが原因で入居者募集に苦労し、売却が難しくなることも想定されます。
なお、中古アパートを購入した場合に、売買契約上の金額を基に減価償却を行うことは問題ありません。ただし、減価償却費を多く計上することを目的に、売買金額における土地と建物の按分比率を時価とかけ離れたものにすると、税務調査で指摘を受ける可能性があります。
4.リフォーム・大規模修繕と減価償却の会計処理
木造アパートにリフォームや大規模修繕を施した場合の経費計上の方法には、「修繕費」 と「資本的支出」 の2種類があります。ここでは、その判断基準や税務上の違い、会計処理について解説します。
4-1. 修繕費か資本的支出か?判断基準と税務上の違い
リフォームや大規模修繕した場合、その支出が「修繕費」と判断されれば、その年の経費に一括計上できる一方、「資本的支出」となれば、資産計上して減価償却しなければなりません。「修繕費」と「資本的支出」の基本的な違いは次のとおりです。
- 修繕費:固定資産の通常の維持管理のため、または毀損した固定資産の原状を回復するために要する費用
- 資本的支出:固定資産の価値を高め、またはその耐久性を増すと認められる部分に対応する費用
修繕費と資本的支出のいずれにあたるかは、次のステップに沿って判断します。
【STEP1:修理・改良のための支出額が20万円未満であるか】
20万円に満たない支出は「少額または周期の短い費用」と見なされ、修繕費として計上できます。
【STEP2:修理・改良の周期がおおむね3年以内か】
20万円以上の支出でも、3年程度の周期で行われる修理・改良の費用は修繕費として計上できます。
【STEP3:原状回復あるいは通常の維持管理のための支出か】
毀損した固定資産を元の状態に戻す、あるいは固定資産が通常通りに使用し続けられるようにするための支出は、修繕費と判断できます。判断できない場合は、次のステップに進みます。
【STEP4:明らかに価値や耐久性を高めるための支出か】
- 機能のグレードが上がる
- 元の固定資産より明らかに価値が上がる
- その固定資産の使用可能期間が延びる
このように、明らかに固定資産の価値や耐久性が上がる場合、資本的支出と判断します。
【STEP5:60万円未満か、もしくは前期未取得価格の10%以下か】
修理・改良費が60万円未満か前期未取得価格の10%以下であれば、修繕費として経費計上します。前期未取得価格とは、前事業年度終了時点でのその固定資産の取得価格にその後の資本的支出を合算したものです。
4-2. 資本的支出と判断された場合の耐用年数の考え方
修繕費用が資本的支出と判断された場合、資産計上して減価償却しなければなりません。その際の耐用年数については、原則として、資本的支出を行った元の資産と種類および耐用年数を同じくする新たな減価償却資産を取得したものと見なされます。
たとえば、耐用年数が22年の木造アパートに800万円かけて改修工事を施し、その支出が資本的支出にあたる場合、800万円を22年かけて減価償却していくことになります。
建物本体はこれまでどおり減価償却しつつ、リフォームに要した資本的支出の部分は新たに減価償却していくイメージです。
4-3. ケース別・具体的な仕訳例(外壁塗装、給湯器交換など)
ここでは、具体的な仕訳例として、外壁塗装を行った場合について見てみましょう。外壁塗装について、これまでどおりの耐水性や耐久性を得るための工事であれば、勘定科目を修繕費として、支出した年度の経費に一括計上できます。たとえば、外壁塗装に100万円かけた場合の仕訳例は次のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
修繕費 | 1,000,000円 | 当座預金 | 1,000,000円 |
一方、従来より耐久性の高い塗料で外壁塗装することで建物の耐久性が向上するなど、資本的支出と判断される場合は、資産計上し減価償却しなければなりません。
この場合、100万円を木造アパートと同じ耐用年数(22年)で償却していくことになります。耐用年数22年の償却率は「0.046」(前掲の「新定額法の償却率」の表参照)であるため、毎年の償却費と仕訳は次のようになります。
- 毎年の減価償却費:1,000,000×0.046=46,000円
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 46,000円 | 減価償却累計額 | 46,000円 |
これらの会計処理は、故障した給湯器などを交換した場合も同様です。従来と同等の給湯器に交換した場合は、通常、修繕費として一括計上します。一方、従来のものより新しい給湯機能を追加し、性能を向上させる給湯器に交換する場合は、木造アパートと同じ耐用年数で減価償却費を計上することになります。
5. 減価償却とキャッシュフローの関係性【黒字倒産に要注意】
不動産投資では、減価償却費を計上することは税務上の大きなメリットとなる一方、キャッシュフロー管理を誤ると黒字倒産のリスクを招くこともあります。ここでは、減価償却とキャッシュフローの関係について解説します。
5-1. 「減価償却費は非現金支出費用」が経営に与える影響
減価償却費は、経費計上はできるのに実際の支出を伴わない「非現金支出費用」であり、非常に便利な経費です。
たとえば、家賃収入が1,000万円、経費が600万円(うち200万円は減価償却費)とした場合、税務上の所得は、1,000万円-600万円=400万円となります。
ただし、実際には減価償却費の支出は伴わないため、1,000万円-(600万円-200万円)=600万円の所得になります。税務上の数字よりも多くの資金を手元に残しつつ所得を減らせるため、税負担を抑えることが可能です。
このように、賃貸経営において、減価償却を正しく使えば手元に残るお金を増やすことができます。
5-2. 不動産投資における税引き後キャッシュフローの計算方法
不動産投資におけるキャッシュフローとはお金の流れのことであり、税引き後キャッシュフローは、最終的に手元に現金がいくら残るかという意味で使われます。税引き後キャッシュフローについて、次の事例で解説します。
事例
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不動産投資における税引き後キャッシュフローは、以下の計算方法で求められます。
- 税引き後キャッシュフロー=税引き後利益 + 減価償却費 ー 返済元金
税引き後の利益は、税引き前の利益(所得)から所得税・住民税を控除して求めます。
- 税引き前の利益(所得)=家賃収入-運営経費-借入金返済(利息)-減価償却費
これを事例を基に計算すると、まず税引き前利益(所得)は
家賃収入1,000万円-運営経費500万円-利息返済100万円-減価償却費200万円
=200万円となります。
次に、税引き後の利益を求めるために、200万円の利益に対してかかる税金を計算します。
- 200万円×20%=40万円 ※税率:20%(所得税10%・住民税10%)で計算
つまり、税引き後の利益は、200万円から40万円の税金を引いた160万円となります。
ここから税引き後キャッシュフローを計算すると、
税引き後の利益160万円+減価償却費200万円-返済元本180万円=180万円となります。
これが税引き後のキャッシュフロー、つまり最終的に手元に残るお金となります。
5-3. 減価償却期間の終了が引き起こす「デッドクロス」とは
減価償却はずっと続くわけではありません。耐用年数が経過すれば減価償却費を経費計上できなくなります。その結果、税務上の所得が増え、借入金の元金返済が続くなかで税金の負担が重くなります。
このようなローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態を「デッドクロス」 といいます。デッドクロスは、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、税金の負担が増え手元に残る資金が減るため、資金繰りが悪化しやすい点が特徴です。
特に、中古アパートを購入した場合、耐用年数が短く、デッドクロスを迎えるタイミングが早くなります。物件取得前からキャッシュフローのシミュレーションを十分に行い、減価償却期間終了後を見据えた対策を講じることが重要です。
6.木造減価償却の重要ポイントを理解し、専門家と最適な不動産経営を目指そう
「木造の減価償却」について、基本的な知識を解説してきました。
木造の法定耐用年数は、業務用が22年、居住用(非業務用)が33年です。
減価償却の計算方法は、居住用建物と業務用建物では異なります。
居住用建物は、売却時になるべく税金を発生させないとする政策的な配慮から、耐用年数も長く、残価も5%残せるようになっている点が特徴です。
中古物件を購入した場合、居住用不動産は新築物件と計算方法が同じですが、業務用建物は耐用年数を求めることから始めます。
「居住用」と「業務用」の違いを、しっかり押さえて理解することがポイントとなります。
7. 木造の減価償却に関するよくある質問
Q.減価償却終了後の木造アパートの資産価値はどうなりますか?
減価償却が終わっても、それは会計・税務上の話であり、木造アパートの資産価値がなくなるわけではありません。
法定耐用年数を過ぎた木造アパートでも土地の価値(減価償却しない資産)と建物の収益価値(入居者がいる限り家賃収入を生む)は残ります。
ただし、築年数の経過に伴って修繕費の増加や賃料下落のリスクが懸念され、金融機関の資金調達も困難なため、流動性が低下する可能性があります。そのため、収益性だけでなく出口戦略も見据えた賃貸経営が大切です。
Q.減価償却の計算で特に間違いやすいポイントは?
減価償却の計算で間違いやすいポイントは、「土地と建物の区別」と「中古アパート取得時の耐用年数」です。
建物と土地の区別では、土地は減価償却できないため、物件価格のうち建物部分だけを減価償却の対象にする必要があります。売買契約書に土地・建物の内訳がない場合、固定資産税評価額などを基に建物の取得費を計算します。
中古物件取得時の耐用年数では、中古物件は法定耐用年数を超えているかで耐用年数の計算式が異なります。法定耐用年数を超えている場合は法定耐用年数×0.2、法定耐用年数を超えていない場合は法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2となります。
Q.アパートのリフォーム費用は減価償却できますか?その場合の耐用年数は?
アパートのリフォーム費用については、工事内容によって減価償却が可能です。その場合の耐用年数は、原則として建物本体の耐用年数となります。
リフォーム工事が、建物の性能や価値向上、耐用年数の延長につながる工事の場合、「資本的支出」として資産計上し、減価償却する必要があります。例えば、一般的な塗料から耐久性に優れた高機能な塗料に変更して行う外壁塗装などは、資本的支出として判断されます。
資本的支出にあたる場合は、原則として建物本体と同種類および耐用年数で、資産を新たに取得したものと考え、木造アパートの耐用年数で毎年減価償却を行います。
なお、データグループが運営する「HOME4U(ホームフォーユー) オーナーズ」なら、土地の所在地や広さなどを入力するだけで、様々な構造のアパート建築会社から、「建築費」「将来の収支計画」「ローンシミュレーション」「節税効果がいくらになるか」「大規模なメンテナンスがいつ発生するか」等をまとめた「アパート建築プラン」の提案を受けることができます。ぜひご活用ください。