3代目大家が教える自主管理の極意「大家さんのための大規模修繕計画」

自主管理の大家さんにとって、大規模修繕計画は、物件の価値維持と安定した収益確保のために避けて通れない重要なものです。

新築当初は物件の競争力が高く、入居者の入れ替わりもスムーズですが、築20年を経過すると設備の老朽化や市場競争力の低下が見え始め、築30年を超える頃には、収益性の低下に加え、建物維持管理コストの増加が顕著になります。

そのテコ入れとして大規模修繕を実施することが多いと思います。

自主管理で大規模修繕を計画する場合、物件の点検から修繕業者の選定、工事の管理まで、その全てを大家さん自身が行う必要があり、相応の知識と周到な計画が不可欠となります。

しかしながら、多くの自主管理大家さんは、いつ、何を、どのように、どれくらいの費用で大規模修繕を実施すべきかについて明確な計画を持っておらず、大規模修繕について様々な悩みを抱えているのではないでしょうか。

そこで今回は、自主管理大家さんが大規模修繕を計画し、実行するための具体的なステップを解説します。

1.現状把握と課題の明確化

最初に行うべきは、所有物件の現状を正確に把握することです。

専門業者による建物診断の実施

建物の構造や設備に関する専門的な知識がない場合、専門の建物診断業者に依頼することが最も確実な方法です。

屋根、外壁、基礎といった構造躯体から、給排水設備、電気設備などのライフラインまで詳細に調査してもらいます。

費用は発生しますが、専門的な視点からの客観的な診断は、適切な修繕計画を立てる上で必要となります。また、業者によっては無料で点検を実施している場合もあります。

自主点検の実施

専門業者による診断と並行して、オーナー自身による自主点検も有効です。定期的に物件を巡回し、以下の項目を中心に注意深く観察しましょう。

(チェック項目一例)
屋根: 防水層のひび割れ、剥がれ、雑草の繁殖、雨漏りの跡
外壁:ひび割れ(クラック)、剥がれ、汚れ、シーリング材の劣化、タイルの浮き
基礎:ひび割れ、沈下、鉄筋の露出
バルコニー・廊下:防水層の劣化、ひび割れ、手すりの腐食、床面の傾き
給排水設備:水漏れ、サビ、排水不良、給湯器などの設備の異常
電気設備:照明の不点灯、共用灯の稼働状況

入居者からのヒアリング

自主管理ならではの強みとして、入居者との距離が近い点が挙げられます。

日頃から入居者と良好なコミュニケーションを図り、建物の不具合や気になる点について積極的にヒアリングしましょう。

入居者からの情報は、オーナー自身では気づきにくい、生活に密着した貴重な視点を提供してくれます。

例えば、外壁の小さなクラックからの雨漏り、雨の日の共用階段の滑りやすさ、あるいは設備の使用感など、具体的な不満や要望は、大規模修繕の計画に直接反映させるべき重要な情報源となります。

過去には、入居者からの指摘により、早期に雨漏りを発見し、被害が拡大する前に修繕できた事例もあります。

2. 修繕計画の基本方針策定

建物診断の結果や入居者の意見を総合的に考慮し、緊急性の高い箇所、放置すると建物全体の劣化を加速させる箇所から優先順位をつけていきます。

2-1. 修繕範囲の決定と予算との調整

優先順位に基づき、今回の大規模修繕でどこまで実施するのか、具体的な修繕範囲を決定します。この際、重要なのは予算とのバランスです。建物の耐久性向上、入居者の満足度UP、そして将来的な資産価値の維持という複数の視点から、費用対効果の高い修繕項目を選定します。

2-2. 付加価値向上を意識した修繕の検討

単に建物の老朽化した部分を修繕するだけでなく、入居者のニーズや社会的な要請を踏まえ、物件の魅力を高めるための付加価値向上策を検討することも重要です。

(付加価値向上の修繕一例)
バリアフリー化:高齢者へ対応するため、手すりの設置、段差の解消など。
省エネ化:共用部分の照明をLED化、断熱性UPなど、ランニングコスト削減に繋がる改修。最近は多くの大家さんが大規模修繕のタイミングでLED照明への切り替えを実施しています。

デザイン性の向上:外壁の色や素材を変更したり、エントランスをリニューアルするなど、物件全体の印象を向上させることで、入居希望者の増加や賃料維持に繋げます。私は街で見つけた魅力的なマンションのデザインを参考にしています。

設備機能の向上:最新の設備を導入することで、入居者の満足度を高め、物件の競争力を向上させます。例えば、宅配ボックスの設置やインターネット環境の整備など。

修繕計画を検討する際には、「建物の寿命を延ばす」という目的だけでなく、「入居率の向上」や「資産価値の維持・向上」といった視点を持つことが大切です。

物件の競争力アップに繋がる修繕の内容や範囲を具体的に検討していきましょう。

3. 信頼できる業者の選定

大規模修繕は業者選びが重要です。

3-1. 情報収集

インターネット上の口コミや評判も参考になりますが、可能であれば、実際に大規模修繕を経験した大家さん仲間からの直接的な意見や評価を聞くことが最も信頼性の高い情報源となるでしょう。

3-2. 複数業者からの見積もり

少なくとも2~3社以上の業者に見積もりを依頼し、工事内容、使用する材料、工期、そして費用について詳細に比較検討します。

この際、単に金額の安さだけで判断するのではなく、見積もりの内訳をしっかりと確認し、工事範囲や使用する材料のグレードなどを比較することが重要です。

また、複数の業者に建物診断を同時に依頼することで、不具合箇所の認識や緊急度の判断が業者間で異なる場合があるので、その結果も業者選びの材料にもなります。

3-3. 最終的な業者選定と契約内容の確認

複数の業者との面談を経て、最終的に一社を選定します。価格だけでなく、担当者の人柄や信頼性、提案内容、そして最も重要な施工後の保証内容やアフターサービスが充実しているかを確認しましょう。

契約書の内容を隅々まで確認し、不明な点は必ず質問し、納得した上で契約を結ぶことが重要です。

例えば、外壁塗装の二度塗りと三度塗り、屋上の防水シート張替えと塗膜防水では、価格に大きな差が生じますので、見積内容をしっかりと把握する必要があります。

4. 予算計画の策定

大規模修繕には多額の費用がかかるため、事前にしっかりと資金調達の方法を検討し、無理のない予算計画を立てることが重要です。

4-1. 資金調達方法の検討

大規模修繕には多額の費用がかかるため、事前にしっかりと資金調達の方法を検討し、無理のない予算計画を立てることが重要です。

4-1. 資金調達方法の検討

自己資金、金融機関からの融資、積み立ててきた修繕積立金など、利用可能な資金源を洗い出し、最適な資金調達方法を検討します。融資を利用する場合は、早めに金融機関に相談し、融資の条件や手続きについて確認しておきましょう。

4-2. 資金計画シミュレーション

資金調達の方法や返済計画などを具体的にシミュレーションし、大規模修繕が賃貸経営に与える影響を事前に検討します。とくに、キャッシュフローが一時的に減少しても経営に支障がないかを慎重に資金計画を策定する必要があります。

5. 工事の実施と現場管理

自主管理の場合、大家さんが現場監督です。

 

5-1. 定期的な現場確認

業者に工事を任せきりにするのではなく、大家さん自身が定期的に現場を訪れ、工事の進捗状況や品質を確認することをお勧めします。

また、業者とのコミュニケーションを密にし、疑問点や変更点があれば、その都度、業者に質問や協議をしましょう。

5-2. 工事完了後の検査とアフターフォローの確認

工事が完了したら、契約内容に基づいて工事が適切に完了しているか、不具合がないかをオーナー自身や必要に応じて業者と一緒に検査します。

気になる箇所があれば、遠慮せずに業者に伝え、再度修繕を依頼しましょう。また、施工後の保証期間やアフターサービスの内容を改めて確認し、その内容を書面で記録しておきましょう。

6. 将来の長期修繕計画

大規模修繕は、完了したら終わりではありません。今回の修繕内容、費用、期間、業者などの詳細な情報を記録し、将来の修繕計画に役立てるための重要なデータとして保管しましょう。

また、今回の大規模修繕で先送りした箇所や、今後発生が予測される修繕項目などを考慮に入れ、将来(次回)の長期修繕計画を計画することが、安定した賃貸経営を継続するための鍵となります。

まとめ

自主管理大家さんにとって、大規模修繕は費用的にも労力的にも大きな負担となりますが、周到な計画と丁寧な実行によって、建物の寿命を延ばし、入居者の満足度を高め、ひいては安定した賃貸経営へと繋がる重要なものです。

今回解説した各ステップを参考に、長期的な視点に立ち、将来を見据えた修繕計画を策定することで、建物の寿命を延ばし、入居者の満足度を高め、安定した賃貸経営へと繋げていきましょう。

この記事の執筆者

この記事の執筆者

藤井健太郎

所属 株式会社UN 代表取締役

祖父母の代から続く三代目大家。
14棟200戸を自主管理と委託管理で運営し、自ら原状回復工事やリフォームも行う。
数年前より物件分析、市場分析、月次、年次分析などを取り入れた賃貸経営にシフトし、キャッシュフローが改善し現在に至る

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