朝晩少し肌寒くなってきたので羽毛布団を出したり、お気に入りのスプリングコートやスタジアムジャンバーをクローゼットの奥から引っ張り出した。
今宵はJAZZ Curtis Fullerの『Blues Ette (1959)』を聴きながら、ある次世代大家さんの事を思い出して書いている。
築古物件の大家さん、または継承するご子孫は、いつかは何かしらの判断に迫られる事になる。
そういった方に、具体的に参考となるリノベーション案件をご紹介しようと思う。
将来を見据えた、次の一手を、あなたも考えてみては如何だろうか。
1.次世代大家さんとの出会い
東京・新宿で毎年2回行われる、アパートメントオーナーのイベントで「New Normal時代の賃貸経営」と「アパートメント収益改善」をテーマに100人くらい参加頂いたセミナーを終わらせた後、30代後半位の次世代大家さんから声をかけてくれた。
彼の話を聞いてみると、名前は相原(仮称)と言い、最近父親が身体を壊し入院したと言う。
そして、今まで父親が運営していたアパートメントの経営を母親と共に見ていかなくてはならない。
そのアパートメントは30年以上経過していて、空室が目立ち家賃も下落する一方だと。
真剣に話しかけてくる彼に何か伝えなくてはと、ちょうど軽く食事でもしようかと思っていた時だったので、その会場内にあるカフェに誘った。
彼とテーブルを挟み暫く世間話をした後に、僕はナプキンに万年筆で『アパートメント簡易経営診断5つのチェックリスト』を書いて、当てはまる項目がいくつあるか聞いた。
A.簡易経営診断5つのチェックリスト
・入居率60%以下
・家賃が新築時より15%以上下がった
・次の入居者が決まるまで4か月以上かかる
・減価償却や銀行の借り入れが終わり、税金が圧迫している
・DSCR(債務返済カバー率)が1.1%以下
この中に複数チェック項目が出てきたら、アパートメントの次の一手となる出口を、考えなくてはいけない。
そして、次の一手は、3つある事を説明した。
B.築古大家さん3つの次の一手
・建て替え
・事業再生リノベーション
・売却
このAとBを併せて僕たちは『収益改善プロジェクト』といって、お客様の個別相談に対応していると説明した。
話を聞いてみると、Aの5つの項目の中に、3つもチェック項目があったので、色々と相談したいという話になった。
そして現状把握のために重要な『市場環境リサーチ』の依頼も頂くのだった。
彼はまだ色々話したそうだったので、
「相原さん、他に何か聞きたい事はありますか?」
と聞くと、
「はい、僕みたいな環境で何か成功事例を持っているオーナーさんはいらっしゃいますか?」
という質問があり、僕はNオーナーのことを思い出した。
この事例が相原さんには一番いい事例になると思い、僕は話し始めるのだった。
そのオーナーは、築40年を超えた7階建てRCマンション(25世帯のアパートメント+オーナールーム)を所有していた。
ご自分はその地域で有名なパスタのお店を経営していて、父親の建てたこの賃貸マンションに住んでいるのだが、特にアパートメント経営にはあまり興味なく、自分の仕事に集中していたと言う。
Nオーナーの父所有の賃貸マンション。
しかし父親から相続して、自分の名義になってから随分経つので、そろそろ、どうにかしたいと考え始めた頃だった。
SNSから僕たちが行う収益改善リノベーションの見学会のことを知り、足を運んでくれた。
その後、このマンションを見に行くのだが、この物件は昭和時代の魅力あるデザインを持つファザードが1970年頃の懐かしさとヴィンテージ感が、新しさを感じる物だった。
このファザード(建物の外観)を活かして何かできないかと考えた。
そして、感じは良かったがエントランスがだいぶ古くなっていたので、まずはエントランスとエレベーターを300万円近くかけて改修し、その後、部屋を順々に、合計13部屋と、共用廊下をリノベーションさせてもらった。
リノベーション後のファザード。
リノベーション後の居住スペース。
このように、オーナーも入居者も住みながら、部屋が空くと一部屋一部屋、間取りやデザインを変えて創り上げていった。
極論から言うと、住んでもらえれば良いということで50,000円(管理費込み)を切るような家賃で貸していた40㎡弱のマンションが、75,000円+管理費という1.5倍以上もの家賃アップとなった。
一部屋当たり45日くらいの工期で、工事請負金額は大体120,000円/㎡(税別)と、建て替えに比べても費用を抑えつつ収益を上げる事に成功した事例だ。
部屋は一般の物件とは違い、全部一緒のデザインではなく、間取りもデザインも変えて全ての部屋にコンセプトを持たせた。
今回の様に古い物件の良いところを活かして、費用を抑えつつ収益を上げる事を、「収益改善リノベーションの企画だ」と話すと、相原さんは
「もう少し収益改善リノベーションの事を具体的に話してください」
と言った。
それでは収益改善リノベーションとは、どういったものか具体的に話をしよう。
2.収益改善リノベーションとは?
2-1.古きよきものを大切にするヴィンテージ感覚
築年数の多いマンションを新築と同じ仕様で戦わせるのではなく、古さを活かしたヴィンテージ感のあるリノベーションとして企画している。
物を大切に活かして使おう…というのは、アパートメント経営の世界でも共通するものだと僕は思っていて、これが、収益改善リノベーションの考え方となっている。
2-2.絞り込みは長期にわたる入居につながる
ここでまず僕たちが大切にしているのは、カテゴリー(誰に住んでもらうか)とコンセプト(どんな暮らしを楽しんでもらいたいか)の絞り込みだ。
こだわりを持つ=長く住んでいただく。
オーナーにとっても、安定した経営という良い結果に繋がっていく企画となる。
2-3.エントランスからリノベーションする
1つの成功事例として、Nオーナーの物件は、築40年のマンションに関して、部屋だけではなく、部屋につながる動線としてのエントランスからリノベーションをした。
最近、注目を浴びるようになった男前インテリアのコンセプトをエントランスに採用し、各部屋に関しては、ナチュラルテイストのリノベーションを企画した。
ここでは、エントランスをコンセプトのあるものに変えて、入り口からエレベーター室までの間がデザインされた空間になることで、内覧者の方々に強く共感していただく結果となり、「部屋のデザインも良いけれど、このエントランスのデザインで決めた」という嬉しい声が入居者から引越し後に聞こえてきた。
2-4.古いマンション物件再生のビジネスモデルへ
つい先日も、これまでの僕たちの実績が認められ、横濱にある築40年ファミリータイプ19世帯となるRCマンションの全体的なリノベーションを、地方銀行を通してご用命をいただく事になった。
これは水道・電気・ガス全てのライフラインを入れ替えて、建物を綺麗に再生するだけではなく、借り手目線で魅力のある作品を創り、ワクワクするような賃貸経営を目指したプロジェクトである。
建物や部屋を魅力のあるものにすると、勿論、こだわりを持った優良な入居者にご入居頂ける。
今後の古いマンションをお持ちのオーナー様たちに向けての良きビジネスモデルとしたいと思って創りこみ、結果、引き渡し後35日間で満室御礼となった。
これは新築のアパートメントより速い満室記録となったのだ。
家賃は100,000円から136,000円と1.3倍の創造家賃を創り出した。
後日、1階の庭付きの部屋が入居者の転勤から空き、18,000円上げて募集したら2週間で優良な入居者が決まった。
これが古いアパート・マンションに魔法をかけた結果だ。
「収益改善リノベーションの魔法ですか…」
相原さんは感心しながら、
「いくつか質問してもいいですか?」
と言ったので、ここからはQA式で話を進めることとする。
2-5.収益再生リノベーションに関するQ&A
Q:Nオーナーさんはマンション再生を考えられた理由はなんだったのですか?
A:いい質問だね。
このマンションはNオーナーのお父さんが建てたものだが、築年数もだいぶ経っていた。
この周辺は、まわりがマンションだらけの場所なので、部屋を借りたい人は、新しく建てられた綺麗なところにいってしまう。
それで、最初は建築業者さんに頼んで、内装をきれいにするリノベーションをやってみたようだが、ただ綺麗にするだけでは力が足らず、もっと新たに別のことをしなければダメだと思った、とオーナーは語っていた。
Q:収益改善リノベーションをやって良かったと、Nオーナーさんが思ったポイントは?
A:たしか、無垢材の床材が気に入ったのと、オリジナルのキッチンがよかった。あとは、入居者が入るまで面倒をみてくれるというところで安心できたと言ってくれた。
僕たちは創って終わりじゃなく、完成したら、その建物に優良な入居者が入って初めて引き渡しだと思っているのだ。
入居者は女性が多くて、職種としてはマッサージ、美容師さんなどがすぐに入ってくれた。
今回のリノベーションでは、部屋だけでなく植栽からエントランス、エレベーターまでの共用部分も変えたのですが、入居者もその友達も通る場所がとても良い雰囲気になっていると、喜んでくれているところが、オーナーも嬉しいと言っていた。
Q:Nオーナーさんが、賃貸経営でこだわっているところは?
A:建物が古いので、古さをそれなりに活かした形でやっていきたいと思っているようだった。
Nオーナーは本業でオーナーシェフとしてパスタの店を経営しているのだが、お客様がお店で好みの味をオーダーできるように、種類豊富なメニューを用意している。
同じように、住む場所もいろいろな好みを活かして、借り手目線でやっていくことができたらいいと思っているようだった。
その思いを、少しずつ実現していきたいですね。とNオーナーはいつも語っている。
Q:次の一手とこれからの賃貸経営をNオーナーさんは、どの様に考えているのですか?
A:次にやってみたいのは、たとえば白を基調に無垢の床材を使用した北欧風デザインのリノベーション。
そのほかにも、違うデザインで色んなことをやってみたいですね。部屋ごとに遊びを採り入れて、個性をもたせていったり、中の建具も面白いものにしたり、色んなことを試してみたいと思っていると語っていた。
これからの賃貸経営については、古いんだけどそれを活かしたかたちで、周りより良い家賃がとれるように、付加価値をつけていければとも思っていると言う。
これがNオーナーの意見で明らかに自分自身もワクワクしている。
これが入居者にも伝播して、そのアパートメントの他には無い差別化になっているのだ。
3.最後に
相原さんは収益改善リノベーションを行う上で、
- 市場環境調査をはじめとしたリサーチ
- アパートメント簡易経営診断
- 事業の次の一手(出口戦略)の計画
こんなところから始めればいいんですよね。
宜しくお願いします。と言って少し元気になって帰って行った。
彼なら今入院している父親の育てた資産を、Nオーナーのように自分の代でもしっかり資産の組み替えが出来るようになるだろう。
と彼の後ろ姿を見ながら感じた。
今回、紹介した相原さんや、Nオーナーのように、アパート・マンションのオーナーは、いつか資産の組み換えに迫られ判断する事となる。
事例であげたのはRC物件だが、木造アパートでも同じだ。
その際、建て替えや売却と併せて、今あるアパートを「活かす」ことも考えてもらいたい。
それぞれのアパート・マンション、またオーナーさんを取り巻く環境次第で、最善の決断は様々だ。学ぶことで、次の一手を打てることは大切なことですよね。
とは言っても、何から手を付けたら良いか分からない人が多いだろう。
その際は、まず専門家に相談して話を聞いてもらいたい。
「yosoro!」
この記事のカテゴリトップへ