この記事の執筆者
この記事の執筆者
太田垣章子
職業 司法書士・賃貸不動産経営管理士
家主側の訴訟代理人として、延べ3000件近くの悪質賃借人明け渡しの訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
住まいのトラブル解決だけでなく、終活・相続サポートにも従事。実務だけでなく、講演や執筆等で積極的に発信もしている。
通称:あやちゃん先生
賃貸経営の中で、戸数が少ないと入居者情報は、ある程度把握できるでしょう。ただ一定数を超えてしまうと、なかなか覚えていられないのが人の常。単身者だったな、年齢はこれくらいだったかな、と思っていても、トラブルが起こってみると実際は違うこともあります。
入居者情報を把握していれば、トラブルも未然に防ぐことができます。今回はその方法をお伝えしようと思います。
私がお勧めしたいのは、『年表』を作ること。
物件ごとにご自身の年齢、物件の築年数、各入居者の年齢等を明記していきましょう。
エクセル等を使うと便利です。各物件のローン残高や完済時期、大規模修繕等の時期と想定額も加えておくと、お金の流れも掴めて良いですね。
年表をお勧めするポイントの1つ目は、入居者の年齢の把握です。
以前の93歳の賃借人が家賃滞納したということで明け渡しの訴訟手続きのご依頼をいただきましたが、その際、大家さんは「70ちょっとの入居者だけどね」とおっしゃっていました。
受任して住民票を取得してみて、びっくり! なんと20年も差がありました。誤差のレベルではなかったので、思わず入居者が入れ替わったのかなと疑ったほどです。
子どもに先立たれた老夫婦が孤立してしまい、介護サービスや福祉の情報も知らずに貯金が底をついて滞納になってしまった案件でした。もっと早くに年金で生活できる部屋に、引っ越しておくべきでした。
ところが高齢になると目の前のことで精一杯で、長期的目線で物事を考えられません。しかも70代になれば、自力で引越しするのも至難の業です。知力・体力・財力がついていきません。
入居者が高齢になると、他にも色々と問題があります。
例えば夫婦が、ご主人の年金で生活している場合。今の高齢女性は専業主婦が多かった時代なので、一般的にはご主人が亡くなると一気に経済状況は悪くなります。遺族年金も、自動的に支払われる訳ではありません。
そのため何があっても払える物件に早めに転居するのが一番なのですが、今生活できていれば、先のために動くことをしません。だからこそ、大家さん側からのアプローチが必要なのです。
高齢者に貸したくないと入居申し込みを断っていても、今の入居者が何年先に高齢者になるか、年表を作らないとなかなか把握できません。一目瞭然の状態なら、早めに声をかけていくことでトラブルを未然に防ぐことができます。
本来は賃借人側が考えて行動すべき問題なのですが、放置してトラブルになるくらいなら、大家さん側から促していきましょう。
そしてここでのポイントは、高齢者になりきってからの声がけではなく、60代で終の住処を確保してもらえるように動くということです。
先にもお伝えした通り、70代になると一見元気なようでも引越しは大変です。部屋を貸してもらえない、という問題も起こります。動くのは60代だと、大家さん側も認識してくださいね。
また高齢入居者だけではありません。例えば滞納が始まった時期が、お子さんの大学入学と重なるとか、退職の時期とかだとすると、次の対応策が見えてきます。
家賃滞納を予測できれば、「このまま払い続けられるか」の判断も明確になりますね。予想して備えるためにも、見える化が重要なのです。
2つ目のポイントは、建て替えです。
建物も、未来永劫いまの状態ではありません。私たちと同じように、築年を重ねていきます。売却してしまわない限り、どこかの段階で取り壊しの問題は発生します。その時に問題になるのは、やはり高齢者なのです。
古い物件には、必ずと言っていいほど、高齢の入居者がいます。
彼らは退去することは同意してくれたとしても、次の住まいを見つけることが本当に大変になります。
若い人なら「部屋が見つかったら言ってきてくださいね」とお願いすれば何とかなりますが、高齢者の場合、大家さん側が見つけてあげないと、いつまで経っても立ち退いてもらえません。居座っているのではなく、動けないのです。
だからこそ建て替えを検討する大家さんは、入居者の方々の年齢も勘案して時期を決めましょう。基本的に60代後半以降の入居者は、よほどのことがない限り転居せずに住み続けます。その部分を頭に入れながら、計画をしていきましょうね。
3つ目のポイントは、賃貸経営の長期プランが立てられるということです。
法人でない限り、どこかで相続ということも発生するでしょう。大規模修繕のタイミングや築年数、入居者の状況に加えて、大家さん自身の年齢を考えて、どうしていこうという方向性を決めやすくなります。
賃貸経営は毎月家賃収入があるので、トラブルがなければそのまま放置しがちです。でももし大家さんが認知症等で意思能力を失ってしまったら、銀行がブロックされて大規模修繕等の費用も使えなくなってしまいます。
大きな目で見られるからこそ、備えることができます。ぜひ年表を活用してもらいたいと思います。
この記事の執筆者
この記事の執筆者
太田垣章子
職業 司法書士・賃貸不動産経営管理士
家主側の訴訟代理人として、延べ3000件近くの悪質賃借人明け渡しの訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
住まいのトラブル解決だけでなく、終活・相続サポートにも従事。実務だけでなく、講演や執筆等で積極的に発信もしている。
通称:あやちゃん先生
3代目大家が教える自主管理の極意<空室に困ったらまず見直すべき内見対策>
【大家さん必見!】入居者に案内すべき家賃補助制度とコロナ禍に有用な税制度