不動産を共有で相続するのは「争いの素」になるのでやめた方がいいと言われます。けれど、なぜ共有相続がトラブルになるのかを知っている人は少ないのではないでしょうか? 解説動画に基づきながら、不動産の共有相続がNGの理由やトラブルの防止策について説明します。
1. 不動産の共有で「争族」が起こる原因は?
不動産の共有相続は「争族の素」になります。ただし、すべての共有相続が悪いわけではありません。将来のトラブル防止のために、共有相続がなぜ問題なのかを知っておきましょう。
1-1. 母の不動産を姉と弟で共有相続
【事例】
母、娘(長女・姉)、息子(長男・弟)の3人家族で母が亡くなり相続が発生。
母の遺産として自宅不動産がある。
本事例で、長女と長男は「遺産は平等に半分ずつ相続しましょう」と意見が一致し、母の残した自宅不動産を持分2分の1ずつ共有する形で相続しました。長女はずっと母と一緒に暮らしていたので、相続する自宅には長女がそのまま住み続けることになりました。
1-2. 10年後にトラブルに!
10年後、長男は子供たちを良い学校に入れるためお金が必要になり、相続した母の自宅の権利を姉に買い取ってもらうことを思いつきました。
長男は長女のところに行き、「姉さん、お金が必要になったんだ。僕の権利を買い取っておくれ」と打診したところ、姉は「そんなお金無いから無理よ」とあっさり却下。長男は「無理って言うなら家を売却して、お金を分けてくれよ」と言ってみましたが、姉は「私が住んでいるんだから無理よ」とやはり却下されました。
お金が必要な長男は困ってしまいました。長男も母の残した自宅について2分の1の権利を持っていますが、姉に持分を買い取ってもらうか自宅を売却しない限り、自分の権利をお金にすることはできません。
1-3. 裁判で解決するならどういう結果になる?
不動産の権利を何とかお金に換えたい長男は、弁護士に相談することにしました。弁護士に相談すれば、「共有物分割訴訟」という裁判を起こして解決する方法をとることができます。共有物分割訴訟とは、文字通り共有物を分けるための裁判で、最近は非常によく行われている種類の裁判です。
共有物分割訴訟を起こした場合、最終的に次の3つの判決のうちのどれかが出されることになります。
(1)分筆
1つの土地を2つ以上に分け、別々の土地にしてしまうことです。更地の場合には分筆で解決することがありますが、本事例のように土地の上に家が建っているケースでは分筆では解決困難です。
(2)買い取り種類の裁判
共有者のうちの1人が買い取って不動産の所有者を1人にしてしまう方法です。この方法では、買い取りできるだけの現金が必要になります。
(3)売却
土地全体を売却して換金し、お金にして分ける方法です。本事例で売却の判決が出たとすれば、長女は家を引っ越さなければならなくなってしまいます。
上記3つは判決により解決する場合ですが、裁判は和解で終わるケースもあります。上記以外の方法でも、当事者全員が納得すれば、和解で問題が解決します。
1-4. 共有持分を買い取りしてくれる会社もある
不動産の共有持分をお金に換えたい場合、不動産会社に買い取ってもらう方法もあります。不動産会社の中には、共有持分の買い取りを行っている会社もあります。不動産の共有持分だけを売却する場合には、共有者の同意は必要ありません。本事例では、長男は姉の同意なく、自分の持分を売却してお金に換えることができます。
不動産会社に持分を買い取ってもらった場合、今度はその不動産会社が長女に買い取りを要求することがあります。長女の方も裁判を起こされたら困るため、買い取りに応じる場合があるからです。不動産会社は、安い値段で共有持分を買い取り、その共有持分を正当な値段で共有者に買い取らせるか第三者に売却することで、利益を得るしくみになっています。
1-5. 兄弟仲が良ければ安心ということはない
「私たち兄弟は仲がいいからトラブルになる心配はない」という人も多いと思います。しかし、相続については、次の代のことまで考えないといけません。
不動産を共有で相続した場合、共有者の1人が亡くなると、その人が持っていた権利は子供たちの代に引き継がれていきます。最初は2人の共有だった不動産も、次の相続が発生すると、共有者の人数が増えることがあります。
不動産を売却したりリフォームしたりするときには、共有者全員の合意が必要です。共有者が増えれば、全員の意見がまとまりにくくなってしまいます。今は兄弟仲が良くても、将来のことを考えると、不動産の共有相続は「争族の素」なのです。
2. 争族防止の対策
共有相続のトラブルを防ぐためには、次のような対策をとっておくのが有効です。
2-1. 現金を用意しておく
不動産の共有で問題が発生するのは、共有者の中で売りたいか売りたくないかで意見が分かれたときです。本事例でも、長男は換金したいのに、長女は住み続けたいことからトラブルになりました。不動産を共有にしていても、2人とも不動産のまま持ち続けてもいいと思っている場合や2人とも売却してもいいと思った場合には、問題にはなりません。
不動産が共有であっても、売りたくないと思っている人が売りたいと思っている人の権利を買い取れれば良いということです。買い取れるお金がなかったら困りますが、現金さえ用意できればお金で解決できます。将来のトラブル防止のためには、現金化できる金融資産を用意しておくことが大切です。
2-2. 遺言書を作成
遺産をどう分けるかは、生前に家族で話し合いをしておくのがベストです。例えば、自宅は長女に相続させ、それ以外の財産は長男に相続させるという遺言書を書いておけば、不動産を共有相続する必要もなくなります。
2-3. 代償分割
代償分割とは、財産を相続した人が、他の相続人に代償金を払って取得額を調整する方法です。本事例で言えば、長女が自宅を相続する代わりに、長男に自宅の評価額の2分の1に相当する代償金を払うという遺産分割のやり方も法律的に認められています。
3. 共有が良い場合
不動産の共有は絶対にNGというわけではありません。不動産を共有で相続しても良いケースもあります。
3-1. 相続後すぐに売却予定
相続した不動産をすぐに売却することで相続人の意見が一致しているときには、共有のままで相続しても問題ありません。売却して得られた代金を持分に応じて分ければ良いだけだからです。
ただし、売るという約束をしていても、途中で誰かの意見が変わることもあります。信頼関係があるうちに進めなければなりません。
3-2. 親子の共有
不動産を親子で共有相続する場合には、あまり問題はありません。親子共有の場合には、親が亡くなったときに子供が親の持分を相続できるからです。共有相続が問題になるのは、きょうだいで共有にするケースになります。
まとめ
不動産の共有は「争族の素」になります。ただし、不動産を共有にしても問題がないケースもあるので、共有相続が絶対にNGというわけではありません。
共有トラブルになるのは、1人が売りたい、1人が住み続けたいと意見が分かれた場合です。この場合でも、持分を買い取れるだけのお金があれば大きな問題にはなりません。
万全を期すためには、不動産の共有相続は避け、他の財産があれば分けて相続するのがおすすめです。
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