アパートの修繕費は工夫次第で負担を抑えることができます。この記事では、「アパートの修繕費」に関する知識について解説します。この記事を読むことで、修繕費と資本的支出との違いや、オーナーが負担すべき修繕部分、主な修繕費の目安、修繕費を安く抑える方法などの知識を得ることができます。
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オーナーが修繕費用を負担する部分はどこ?
アパート修繕はオーナー負担となる部分と入居者負担となる部分があります。オーナーの負担となる修繕は以下の通りです。
- 退去時に原状回復
- 古くなった設備の交換
- 予防修繕
- 大規模修繕
アパート修繕費の会計上の注意点
アパートの修繕費には、会計上の注意点があります。修繕費は会計上、以下の2種類に分けられます。
- 経費として計上できる費用
- 減価償却する資本的支出
両者の違いは、一度に要する工事の支出が20万円未満のものなら「費用」であり、20万円以上のものなら「資本的支出」となる点です。
アパートの修繕費用負担を抑える方法は?
アパートの修繕費の負担を抑えるコツには以下の方法があります。
- 修繕費も含めて建築プランを検討する
- 定期的に修繕を実施する
- 入居審査をしっかり行う
1.アパート経営で大家が行う修繕とは?
この章ではオーナーが負担すべき修繕の種類やその内容、考え方について解説します。
1-1.退去時の原状回復
入居者が退居した際には、原状回復が必要です。原状回復とは、借主が入居した当時のものに直してまた貸せる状態にすることです。
室内の経年劣化や自然損耗については、アパートオーナーが修繕すべきものになります。
経年劣化とは畳の日焼けのようなもの、自然損耗とは画鋲の穴跡のような通常使用によるもののことです。
室内の修繕に関しては、借主が行う原状回復もあります。
ただし、借主が行う原状回復には経年劣化や自然損耗を修繕する義務はありません。
国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下、「ガイドライン」と略)」では、原状回復を以下のように定めています。
【原状回復の定義】
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
つまり借主による原状回復とは、故意(わざと)・過失(うっかり)等によって壊したものを元に戻す修繕ということになります。
借主は経年変化や通常損耗まで原状回復を負う義務はないとされていますので、経年変化や通常損耗についてはアパートオーナーが修繕しなければならないものなのです。
貸主(アパートオーナー)が修繕すべきものと、借主が修繕すべきものの具体例を例示すると以下のようになります。
貸主が修繕すべきもの | 借主が修繕すべきもの |
---|---|
・壁に貼ったポスターや絵画の後 ・家具の設置によるカーペットのへこみ ・日照等のよる畳やクロスの変色 |
・タバコによる畳の焼け焦げ ・引越作業で生じた傷 ・結露を放置したために生じたシミやカビ |
「経年劣化や自然損耗」は貸主負担、「借主が故意・過失等によって壊したもの」は借主負担で修繕することになります。
1-2.古くなった設備の交換
古くなった設備の交換や大規模修繕は、アパートオーナーが負担すべき修繕となります。
建築当初から設置されていた給湯器やウォシュレット、エアコン等はオーナーの資産ですので、オーナーの費用負担で修繕することが必要です。
1-3.予防修繕
予防修繕とは、建物の劣化や損傷を防ぐためにあらかじめ行われる修繕のことで、定期的に行われる予防的なメンテナンスや点検を含みます。具体例としては、以下のような内容が挙げられます。
<予防修繕の具体例>
- シロアリの検査
- 薬の散布
- 外壁の状態検査
- 屋根の状態検査
予防修繕は、将来的なトラブルや修繕費用の増加を防ぐために重要な役割を果たします。定期的な点検やメンテナンスを含む予防修繕を適切に行うことにより、その建物の安全確保や資産価値の保持に役立つでしょう。
1-4.大規模修繕
大規模修繕とは、予防修繕やメンテナンスでは対応しきれないような大規模な工事や修繕を指します。具体的には外壁塗装や屋上の防水等の工事があり、その時点で壊れていなくても建物価値を維持するために定期的に行う必要があります。
・修繕費の積立は家賃の何パーセントくらいがよいか?
修繕費の積立金の目安は、一般的に「家賃」の何パーセントというよりは、「建築費」の何パーセントといった割合で見込んでおくことが一般的です。
修繕費は築年数と建築費に応じて以下の割合くらいで想定するのが一つの目安となっています。
築年数 | 割合 |
---|---|
1~10年目 | 建築費の0.3%程度 |
10年~20年目 | 建築費の0.5%程度 |
21年目以降 | 建築費の1.0%程度 |
例えば、建築費が5,000万円のアパートであれば、10年~20年目においては、毎年25万円程度(=5,000万円×0.5%)の修繕費が発生するイメージです。
修繕費は毎年定額が発生するわけではないので、想定はあくまでも1つの目安となります。
上記のような想定方法で修繕費を計算すると、修繕費は家賃に対して10%~20%程度の割合で生じることになります。
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2.主な修繕の費用平均目安と実施の時期
この章では、主な修繕費の相場と実施の目安について解説します。最初に、主な修繕費の目安と実施の時期をリスト化しました。
修繕箇所 | 費用の目安 | 実施の時期 |
---|---|---|
クロス | 1,000円~1,500円/平米 | 6年~8年 |
クッションフロア | 3,000円~5,000円/平米 | 8年~12年 |
ウォシュレット | 2万円~4万円/台 | 7年~10年 |
エアコン | 3万円~6万円/台 | 10年~15年 |
外壁塗装 | 5,000円~10,000円/平米 | 10年~15年 |
給湯器 | 10万円~15万円/台 | 10年~12年 |
屋上防水工事 | 8,000円~10,000円/平米 | 10年~15年 |
それぞれの修繕項目について、詳しくは以下で解説します。
2-1.クロスや床の貼り替え
クロスや床材は経年劣化していきますので、オーナーの費用負担で定期的に貼り替えることが必要です。
クロスなら平米あたり1,000円~1,500円程度、クッションフロアの平米あたり3,000円~5,000円程度となります。
実施の目安としてはクロスなら6年~8年、クッションフロアなら8年~12年に1度のペースです。
2-2.ウォシュレットやエアコンの交換
部屋の設備にオーナー側でウォシュレットやエアコンをつけている場合は、交換が必要となります。
ウォシュレットやエアコンは電化製品ですので、入居者が普通に使っていても寿命で壊れてしまうことも多いです。
入居者がわざと壊したものでなければ、オーナー側で交換します。
また、古くなってきたウォシュレットやエアコンに関しては、入居者が退去したあと、しっかり動作確認をしたうえで貸すようにしてください。
最初から壊れていると、クレームに繋がりますので、正常に動くことを確認してから貸し出すことがポイントです。
ウォシュレットなら1台あたり2万円~4万円程度、エアコンの1台あたり3万円~6万円程度かかると考えます。
実施の目安としてはウォシュレットなら7年~10年、エアコンなら10年~15年に1度のペースです。
2-3.外壁塗装
外壁塗装はアパートオーナーが行うべき大規模修繕の1つです。
外壁塗装を行うと、アパートの見た目がかなり綺麗になるため、入居者募集効果もアップします。
外壁塗装工事を実施した後は、かならずインターネットの広告写真も塗替え後の写真に切り替えるようにしてください。
外壁塗装の費用目安は平米あたり5,000円~10,000円程度となります。
実施の時期としては10年~15年に1度のペースです。
2-4.給湯器の交換
アパートでは各室に給湯器が設置されています。
お湯が出なくなるというのは入居者トラブルの元なので、給湯器は壊れる前に古くなったら定期的に交換するのが一般的です。
給湯器の交換は1台あたり10万円~15万円となります。
実施の目安としては10年~12年に1度のペースです。
交換するときは、全部屋の分を一度に交換していきます。
2-5.屋根
鉄筋コンクリート造や重量鉄骨造でアパートを建てた場合、屋根が陸屋根(ろくやね)になると定期的な屋上防水工事が発生します。
陸屋根とは、傾斜のない平坦な屋根のことです。
屋上防水工事の相場は平米あたり8,000円~10,000円程度となります。
実施の目安としては10年~15年に1度のペースです。
3.アパート修繕費の会計上の注意点
アパート経営をする上で、修繕費の種類を知っておくことが重要です。修繕費には、会計上の経費になる「費用」と、会計上の資産になる「資本的支出」の2種類があります。
両者の違いは、一度に要する工事の支出が20万円未満のものなら「費用」であり、20万円以上のものなら「資本的支出」という点です。
3-1.経費として計上できる費用
経費として計上できる費用とは、その年の不動産所得を求めるに当たり、必要経費になる支出です。
それに対して、資本的支出とは、建物に新たな資産を作ったとみなされる支出になります。
個人が行うアパート経営では、確定申告のために不動産所得を計算します。
不動産所得の求め方は以下の通りです。
不動産所得の計算式
不動産所得=収入金額-必要経費
費用に分類される修繕費は、その期の不動産所得を求めるに当たり、必要経費の中に含むことができます。
3-2.減価償却する資本的支出
一方で、資本的支出は、支出した期に全額が必要経費にはなりません。
資本的支出は、一旦、建物のような資産として扱われますので、減価償却の対象となります。
減価償却とは、建物や設備等の固定資産の価値を減少させていく会計上の手続きのことです。
資本的支出となった資産は、減価償却という形で一定の年数をかけて少しずつ費用となっていきます。そのため、修繕費が資本的支出に該当してしまうと、その期は全額費用にはならないため、大きな節税効果は得られません。
アパート経営では、修繕費を費用として落としたい場合は、20万円未満の工事内容にすることを意識することがポイントです。
尚、例外的に外壁塗装(グレードアップを伴わないもの)については20万円以上の支出であっても資本的支出ではなく費用となります。
外壁塗装なら仮に100万円かかったとしても、その年に全額費用で落とすことが可能です。
4.修繕費の負担を抑える方法
この章では修繕費の負担を軽くする方法について解説します。修繕が必要になってから「高額すぎて払えない」とならないよう、工夫が必要です。3点ありますので、しっかり確認ながら読み進めてください。
4-1.修繕費も含めて建築プランを検討する
アパートの修繕費を抑えるには、まず建築する前に、「修繕費も含めてどのようなアパートにするのか」という「建築プラン」を検討することが重要です。
アパート建築を始める際は、つい目の前の建築費だけが気になってしまいますが、修繕費が今後どの程度発生するのかしっかりと注視して決めることがポイントとなります。
アパートの修繕費を抑えるには、複数のハウスメーカーの建築プランを比較することが最も効果的です。
建築プランの中には、建築費だけでなく、修繕費の長期シミュレーションも加味されますので、各社の提案の違いをしっかり比較するようにしてください。
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4-2.定期的に修繕を実施する
アパートの修繕費を抑えるには、定期的に修繕を実施することが重要です。
大規模修繕のようなメンテナンスは、特に激しい損傷がなくても建物を維持するために行います。
大規模修繕は、どれもまだ使える状態で交換や補修をするため、一見すると修繕を実施せずに放っておきたくなります。
しかしながら、定期的な修繕を実施しないと、後でもっと大きな修繕費用が生じてしまいます。
例えば、外壁塗装などは放っておくと、将来、下地補修工事まで必要となってしまって外壁塗装の倍額に近い工事費用が発生することもあります。
そのため、大規模修繕はしかるべきときにきちんと実施することがトータルの修繕費を抑えることに繋がります。
また、定期的に大規模修繕を実施してきた物件は仮に売却するようなことがあっても買主に高く評価してもらえます。
まさに資産価値を維持する行為に繋がりますので、大規模修繕は必要な支出だと思って定期的に実施するようにしてください。
4-3.入居審査をしっかり行う
入居審査をしっかり行うことも修繕費を抑える重要なコツです。
アパート経営の中ではマナーの悪い入居者を入居させてしまったことにより、多くの修繕費が発生することがあります。
典型的な例として、部屋をものすごく汚く使う入居者が入ってきた場合などは余計に修繕費が生じます。
中には、クロスや床を全部貼り替えないと次の入居者に貸せないくらい汚く部屋を使う借主もいます。
また、マナーの悪い入居者はろくに掃除もしませんのでカビの発生もひどくなります。
ニオイも残ってしまうため消臭のための工事も必要です。
一方で、マナーの良い真面目な入居者は部屋を丁寧に使ってくれるため、退去時もきれいな状態で部屋を返してくれます。
掃除もマメに行ってくれますので、カビやシミ等が放置されるようなこともありません。
マナーの良い入居者を選ぶと、自然と修繕費の発生を抑えることができるのです。
管理会社には、マナーの悪そうな人は入居させないで欲しいときちんと伝え、緊張感をもって入居者を選んでもらうことが効果的な対策となります。
5.計画的な修繕まで踏まえて相談できる建築会社の選び方
いかがでしたか。
アパートの修繕費について解説してきました。アパートオーナーが対応すべき修繕には「退去時の原状回復」「古くなった設備の交換」「予防修繕」「大規模修繕費」があります。修繕費は、20万円未満のものなら費用となり、20万円以上のものは資本的支出となります。
また、修繕費の負担を軽くする方法は、「修繕費も含めて建物プランを検討する」、「定期的に修繕を実施する」、「入居審査をしっかり行う」の3つがあります。
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この記事を書いた専門家
(株)グロープロフィット 竹内 英二不動産鑑定士事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役を務める。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
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