敷金とは別の意味がある「敷金償却」。アパート経営を続ける大家さんにとっては、入居者とのトラブルを減らし、円滑に会計処理する意味でも理解するべき基礎知識です。易しく解説します。

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公開日
2020年01月20日
変更日
2020/01/20
カテゴリ
記事, 大家さん向け, これから始める人向け, 税金・相続

敷金償却って何?大家さん向けに契約のポイントから会計処理方法を解説!

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敷金償却って何?大家さん向けに契約のポイントから会計処理方法を解説!

「敷金」をご存知の方は多いでしょうが、一方で「敷金償却」という言葉は聞き慣れません。実はこの2つは、似て非なる概念です。

敷金は入居者から預かる一時金のことで、退去時に返還するものですが、敷金償却はそれとは逆の概念です。つまり、「返還しなくていいお金」を指します。

返還しなくていいお金、ということは、敷金償却金(=保証金)は「大家さんの収入」として捉えられます。収入となると、当然会計処理の問題が出きます。
また、退去者の中には「敷金は全額返ってくるもの」と当てにする方もいらっしゃいます。後のトラブルに備えて契約時の注意点も気になるところでしょう。

敷金償却について、よく質問の上がる「会計処理の方法」「契約時の注意点」について、ピンポイントで知りたい方は、下記のリンクから解説箇所をご覧ください。

この記事では、初めての方でも「敷金償却」の全容がわかるようお伝えします。

基礎知識から、トラブルを回避する注意点までお目通しいただければ、敷金償却の実務をスムーズに進めることができるようになります。ぜひ参考にしていただければ幸いです。

1. 敷金償却とは

敷金償却とは、入居者から預かった敷金のうち「退去後も返さなくてよい」お金のことです。
業界用語で「敷引き(しきびき)」とも呼ばれます。

敷金は入居者が引っ越すとき、通常は入居者に返還されますが、その時に「あなたが住んでいた期間中に、家のこの箇所と、ここが傷んだので、その修理代として…」と修理代を差し引きます。

この差し引いた分を「敷金償却金・保証金」と言います。入居者はまるまる返還されるものと当てにしているケースが多く、実に誤解を与えやすい概念です。

償却金には、2つのパターンがあります。

トラブルを未然に防ぐためにも、敷金償却の正しい知識を身に着けておきましょう。

1-1. 敷金との違い

敷金」という言葉は、賃貸住宅に住んだことのある方なら一度は聞いたことがあるでしょう。

敷金とは、アパート経営の「リスクヘッジ」のために入居者から一時的に預かる金銭を指します。相場は家賃の1~2ヵ月分です。(最近は敷金ゼロの物件も増えてきました)

敷金と償却費の違いは、以下の通りです。

敷金 = 返還を前提に入居前に預かるお金
償却金(保証金) = 敷金の中から返さなくていいお金

「敷金」という枠の中に、償却金(保証金)というカテゴリがあると思っていただくとわかりやすいでしょう。

長くアパートを経営していれば、大家さんにはお金にまつわるリスクがつきまといます。例えば入居者が室内の床・壁などに傷・汚れをつけたり、水回り設備が消耗すれば、修繕費で大家さんの懐が痛みます。

こうした様々な債務をカバーするために、「敷金」という形で、あらかじめ入居者から一定の金銭を預かることができるのですが、敷金を返すときは、大抵が原状回復費(=償却金・保証金)を差し引いた金額が退去者のもとへ返還されます。

1-2. 償却費用は敷金の何割?

償却費用(=保証金)の割合はアパートの築年数によって変わってきますが、敷金=家賃1カ月分だとしたら、おおむね敷金の6割ほどが「償却費用」の相場になります。

ただし床や壁の汚れ具合や、水回り設備や建材の傷み具合によって異なりますので、本当にケースバイケースです。

1-3. 敷金から保証金を差し引く限度

敷金の償却額(保証金)に関しては、特約付きで契約すれば、「高額すぎない限りは有効」と言われています(平成23年・最高裁判決)。

気になるのが、具体的な許容ラインですが、一般的には、家賃の2.5~3ヵ月分ほどの償却金なら問題ないとされています。この点については、後述の3章で詳しく解説します。

2. 敷金償却の会計処理

敷金償却の会計処理の仕方は、状況によって変わるため、やや複雑です。

2-1. 敷金償却の消費税はどうなる?

用途で変わってきます。居住用の場合は非課税ですが、事業用(店舗、事務所など)の場合は課税対象となります。

では課税される場合、どう消費税を試算して、帳簿に入れればいいのでしょうか。以下、具体例を紹介します。

月額家賃 20万円
契約期間 2年間
敷金 80万円(家賃の4ヵ月分)
償却費用 20万円(家賃1ヶ月分)

上のケースで課税されるのは、「償却費用20万円(家賃1ヶ月分)」の部分です。
この償却費用を契約時に特約で定めていれば、あらかじめ決まっている金銭となり、帳簿には「長期前払費用」として消費税を含めた額を記入します。

計算式は、

長期前払費用 = 20万円(償却費用)×0.1(消費税)
       =22万円(消費税込みの償却費用)

となり、長期前払費用は、消費税2万円を足して「22万円」となります。

2-2. 敷金償却の仕訳はどうなる?

消費税の課税の有無は「居住用」か「事業用」ではっきりしていますが、仕訳の勘定項目は、おおむね下の3通りです。

返還を前提に敷金を預かっているときは、仕訳は「預り金」「現金又は預金」となりますが、そのうちの敷金償却金が決まれば、それは大家さんの懐に入るお金なので、その分に限り勘定項目が「売上」となります。

2-3. 敷金の会計処理方法

勘定項目の違いがわかったところで、具体的に会計処理の方法に入ります。
ここも少し複雑ですが、同じ「敷金」でも、退去者に返す場合と返さない場合で、会計処理の方法が変わってきます。

2-3-1. 敷金を返す場合

敷金を返す場合は、「一時的な預り金」なので、収益計上する必要はありません。大家さんの懐に入るお金ではないからです。

先にも触れた通り、勘定項目は「預り金」「現金又は預金」となります。将来的に退去者に返すお金という意味では、資産でなく「負債」という見方もできます。こう思えば、預り金を収益計上しない理由に、納得がいきます。

2-3-2. 敷金を返さない場合

逆に収益計上するパターンとは、敷金を返さない場合です。退去者に返さないお金は、「大家さんが自分で使えるお金」と見なすことができます。

敷金の中の返さなくていいお金(=償却費用・保証金)の勘定項目は、「売上」となり、その部分はきちんと収益計上しなければいけません。

敷金を返還しないことが決まるタイミングは、おおむね以下の3通りです。

難しいのは、償却金が決まった段階で、例えば「この償却金は2年間で償却されていくものとする」という決まり事があった場合、どんな具合に収益計上すればいいのでしょうか。

2年間で償却する場合は、単純に2年に分けて収益計上します。

(例)敷金10万円の場合(=償却金の場合)

①預かり時・・・「預り金:10万円」
②償却時1年目・・・「売上:5万円」
③償却時2年目・・・「売上:6万円」

となります。

3. 敷金の償却契約の注意ポイント

敷金をめぐる返還トラブルは後を絶ちません。
大家さんにしてみたら、一度預かった敷金でも、一度懐に入れてしまったら、出来るだけ部屋を修繕した上で返還したい心理が働きます。

一方、預けたほうの入居者は、部屋を汚したり傷つけているにもかかわらず、全額返ってくるものと思う人が多いです。

このギャップが、トラブルの元になっています。争いを未然に防ぐやり方はあるのでしょうか。具体例・注意点を交えて解説します。

3-1. 敷金償却契約とは

敷金償却契約とは、退去時の敷金の一定額(もしくは全額)を差し引く契約のことです。敷引き契約」とも言います。

預けた敷金が返ってくると思う入居者にとっては不利な契約ですが、償却金をあらかじめ定めてトラブルを未然に防ぎたい大家さんにとっては、必要不可欠な契約です。

敷金償却契約をめぐっては、「無条件で償却金を払わされるのは、消費者保護の視点に欠けるのでは」という退去者側の疑問のもと、返還をめぐって裁判で争われた例があります。

平成23年の最高裁判例では、「敷金償却契約は、原則として有効」という判決が下されました。ただし敷引きの金額が大きくなればなるほど、無効とされるリスクが上がります。

許容ラインを押さえるためにも、次から説明する「注意点」「有効の条件」をお読みいただき、ぜひ参考にしてください。

3-2. 敷金償却契約の注意点

ここからは平成23年の最高裁判例内容をもとに、ポイントを整理します。敷金償却契約で注意したいポイントは次の3つです。

以下、詳しく解説します。

3-2-1. 契約書で、償却金額を互いに合意していること

平成23年の最高裁判例では、「敷引き特約は原則有効」と判決が下され、大家さん側(被告)の主張が認められた形になりました。その根拠の一つが、契約書を介した合意の有無でした。

以下、判例の一部を引用します。

「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得する事ことになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている」

引用:国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事例42」

つまり判例の肝は、契約書に敷引金の額を「明記」することが重要になります。借主に説明した上で締結したものならば、「互いに合意がとれている」とみなされることが判例から伺うことができます。

3-2-2. 償却金が高額すぎないこと

いくら敷引き特約が「原則有効」と認められても、限度があり、常識の範疇を超えて高額になった場合には、無効になる可能性が出てきます。判例では、次のように説明されています。

「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引き契約は、(中略)敷引き金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近隣同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなどの特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である」

引用:国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事例42」

不当に高額の場合は、いくら契約書で合意が交わされても、消費者保護(入居者保護)のもと「無効」とされるリスクがあるということです。

それでは、償却金が「高額かそうでないか」に明確な線引きはあるのでしょうか。決まったルールはありませんが、これも先の最高裁判例を基準に考えることができます。

判例によれば、敷金償却費用は「家賃の3.5ヵ月分を超えるかどうか」が一つのラインになっています。

「本件契約における賃料は9万6,000円であって、本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、賃借人Xは、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払い義務を負う他には礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」

引用:国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン 事例42」

家賃3.5カ月分を超えなければ、「高額でない」と判断されています。しかし更新料以外の礼金などの支払いが一切なかったことも加味された上での判断なので、この点は注意が必要です。

3-2-3. 礼金などの他の支払いの有無

ただし最高裁で「特約は有効」とされたのは、償却金の金額設定が妥当だったから、だけではありません。周辺情報も鑑みた上で、有効とされています。

先の判例からは、「礼金などの他の支払いがあるかどうか」というポイントを抽出できます。

要約すると、「本件契約は、家賃1カ月分の更新料を(入居者が)負担する以外に、礼金などの一時金を支払う義務を負っていない。
そうすると、敷引金(=償却金)の額が高額に過ぎると評価することはできない」とされています。

判例の償却金「家賃2ヵ月分~3.5ヵ月分」が“有効”とみなされたのは、礼金などの他の支払いがなかったことも鑑みた上での判決です。
裏を返せば、もし大家さんが「礼金など」を徴収していたら、先の償却金は“無効”とされる可能性があったと捉えることができます。

判例主義の日本において、最高裁の判例は説得力ある目安になります。敷金償却契約をスムーズに履行するためにも、上の3つはぜひ押さえていただきたいポイントです。

3-3. 敷金償却契約は有効?

それでは逆に、敷金償却契約を“有効”とするためには、どんなポイントを押さえればいいのでしょうか。
こちらも平成23年の最高裁判例を鑑みれば、先に紹介した3つの注意点をクリアすれば、敷金償却契約は“有効”になる可能性が高くなります。

①入居者と大家さんが明確な合意のもと契約を交わしたかどうか
②償却金の額が家賃の3.5倍にとどまっているかどうか
礼金や更新料を含めた金額が高額すぎないかどうか

先の最高裁判例を振り返ると、判例では「賃借人は賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている」ときちんと記載されています(①)。

②と③については、判例の賃貸住宅の家賃・償却金は、

家賃:9万6000円
償却金:18万~34万円(経過年数に応じて変動)

とまとめられており、これらの金額に対し、最高裁は「家賃の2倍~3.5倍にとどまっている」(②)と言及しています。

さらにそれは「礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると、本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず(以下省略)」(③)とあります。

償却金は家賃3.5ヵ月分を超えているかどうかが許容ラインになるものの、礼金など他の支払いを足したときに、3.5ヵ月分を上回るようであれば、「無効」となるリスクが出てくるということです

まとめ

いかがでしたか?

敷金償却は、敷金とはまったく別の概念です。入居者から一時的に預かる「敷金」に対し、敷金償却金は「敷金の中から返還しなくていいお金」です。

さらに「敷金」「敷金償却」では概念も違うため、会計処理上の仕訳のやり方が変わってきます。
敷金は「預り金」ですが、大家さんの懐に入る償却費用は「売上」として収益計上しなければなりません。

また敷金償却にあたっては、たとえ敷金償却契約を取り交わしても、返還を求める入居者と争いになることもあります。

敷金償却契約が“有効”と認められるためには、「しっかり合意をとること」「償却金が家賃3.5ヵ月分を超えていないこと」「礼金などを含めた金額が高額すぎないこと」の3つのポイントを押さえなければなりません。

詳しく知りたい方は、平成23年最高裁判例にお目通しいただくと、さらに理解が深まります。

ぜひこの記事を参考に、敷金償却の実務をスムーズに進めていただけることを心より願っています。

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