
賃貸経営を始められたばかりの方、また始めることを検討する際、家賃収入にかかる税金が実際どのくらいかかるのか、気になるものだと思います。
この記事では、家賃収入にかかる税金について計算方法や、確定申告の方法など基本から分かりやすく解説していきます。
この記事を読めば、自分で確定申告する場合でも、税理士に任せる場合でも、家賃収入にかかる税金の計算方法の基本を理解できるようになり、賃貸経営において重要な要素である節税の判断に迷うことがなくなるでしょう。
Contents
1. 家賃収入は「不動産所得」として税金が課される
所有している土地にアパートやマンションを建てて家賃収入を得ると、その利益を不動産所得として計算し、所得税と住民税を納める必要があります。
不動産所得は所得税の計算における「総合課税」と「分離課税」の内、「総合課税」に該当しますが、こうした、所得税全体の基本的な構成を理解しておくと、「損益通算」など節税につなげやすい仕組みを楽に理解できるようになります。
以下、解説していきたいと思います。
1-1. 総合課税と分離課税
まず、所得税は「総合課税」と「分離課税」に分かれています。
総合課税とは、給与所得などいくつかの所得があり、これらを合計した金額に税率を掛けて計算するものです。不動産所得は総合課税に該当します。
例えば、給与所得が年間400万円、不動産所得が年間300万円である場合、その年の合計所得である700万円に対して税率を掛け、税額を計算します。
一方、分離課税とは他の所得とは別に計算するものです。
例えば、土地を売却したときの(不動産の譲渡に関する)譲渡所得は分離課税となり、これは給与所得や不動産所得とは別に計算します。
例えば給与所得が400万円、不動産所得が300万円、譲渡所得が1,000万円だった場合、総合課税分の所得は700万円、譲渡所得は分離課税として1,000万円を別々に計上します。
1-2. 総合課税は損益通算できる
上記のとおり、総合課税はいくつかの所得を合算して計算し、分離課税は分けて計算します。このことから、大きな違いとなりやすいのが「損益通算」に関する取り扱いです。
損益通算とは、他の所得で赤字となったものを別の所得の黒字から差し引けるというものです。
例えば、給与所得が400万円の方が、不動産所得で300万円の赤字となってしまった場合、損益通算することでその年の所得を合計100万円とすることができ、税金の還付を受けられます。
アパートやマンションを建てて家賃収入を得る方法では、初年度に大きな出費がありますが、2年目以降は実際の出費はないものの、不動産の価値の目減り分を経費として計上する「減価償却」を利用できます。
こうした、「損益通算」や「減価償却」など、賃貸経営に関する税金を正しく理解することで、経費計上による節税効果を高めることができます。
2. 不動産所得の計算方法

不動産所得が総合課税に該当することをお伝えしましたが、具体的にどのように計算するのでしょうか。
2-1. 不動産所得の計算式
まず、不動産所得を求める計算式は以下のようになります。
不動産所得=不動産総収入-必要経費
不動産所得に該当する収入の合計額から、経費と認められるものの合計額を差し引けると考えてよいでしょう。
2-2. 不動産総収入に含まれるもの
賃貸物件の経営において、収入に含まれるものは家賃収入だけとは限りません。具体的には、家賃収入の他に、以下のようなものを不動産総収入として計上できます。
- 礼金や更新料、管理費など家賃以外に入居者から受け取るもの
- 駐車場賃料(駐車場のみの契約も含む)
- アンテナ基地設置料金や設置した自動販売機からの収入
新しく入居者を迎えるときは敷金と礼金を受け取るのが一般的ですが、このうち、敷金は将来返還されるため収入には含みません。一方、礼金は返還されないため不動産収入に含みます。
なお敷金についても、入居者の債務不履行などにより返還しないことが決まったら、その時点で不動産収入として計上する必要があります。
その他、家賃の滞納などがあったとしても、いずれ収入を得るものとして不動産総収入に含める必要があります。もちろん、後に実際に滞納分の収入があったときは重ねて計上する必要はありません。
2-3. 必要経費に含まれるもの
必要経費に含まれるものとしては、以下のようなものがあります。
- 物件の修繕費
- 不動産会社に管理を委託する際の管理委託費
- ローン返済額のうち、金利に該当する部分
- 減価償却費
- 入居者を集めるための広告費
- 不動産取得税や固定資産税
まず、アパートやマンションを建築するにあたりローンを借りた場合、毎月ローンを返済していく必要があります。このとき経費として計上できるのは、ローン返済額のうち金利に該当する部分のみです。
また、アパートやマンションを建築した後、数十年にわたり建物の価値は目減りしていくことになります。
この目減り分を計上するのが減価償却費です。
減価償却費は、アパートやマンションを建築して2年目以降は「実際には出費していないが経費として計上できるもの」なので、上手に活用すれば税負担を和らげることができます。
2-4. 事業的規模になると青色申告特別控除を受けられる
賃貸経営の規模が事業的規模と認められると、上記の不動産所得から最大で65万円分差し引くことができる「青色申告特別控除」を利用できるようになります。
事業的規模かどうかの見分け方は、貸家の場合で5棟以上、アパート・マンションの場合で10室以上とされています。
ただしこれは絶対的なものではなく、5棟もしくは10室を満たさない場合でも税務署の判断で事業的規模と認められるケースもありますので、確認してみてください。
青色申告特別控除は、減価償却と同じように「実際には出費していないが経費として計上できるもの」なので、積極的に活用していきたいところです。
参考:国税庁「青色申告制度」
3. 家賃収入にかかる税金の税率
ここでは、家賃収入にかかる税金について解説します。
3-1. 所得税の税率
賃貸経営で得られる家賃収入等は、不動産所得として計上されます。
不動産所得は総合課税のため、給与所得など他の所得と合算して課税所得が計算されます。
総合課税の所得税に対する税率は、所得が多くなるほど税率が高くなる累進課税が採用されており、その税率は以下のようになります。
課税所得額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超1800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1800万円超4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
出典:「所得税の税率」
3-2. 住民税の税率
住民税は所得税の計算で求めた課税所得に対し、一律で10%(県民税4%、市町村民税6%)の税金が課されます。
つまり、所得税と住民税を合計すると、所得によっては最大で55%もの税金が課されることになります。
アパートやマンションを建築する際は、どのくらいの家賃収入が見込めるのか、経費を差し引いた後の課税所得に対してどのくらいの税金が課されるのか、おおよその額を把握しておいてください。
4. 家賃収入の税金に関する注意点

ここでは、家賃収入の税金に関する注意点をお伝えします。
4-1. 居住用の家賃収入には消費税は課されないが事務所等には課される
家賃収入に関する税金について気をつけておきたいものとして、消費税の取り扱いがあります。
実は、居住用の建物で得られる家賃収入については税金が課されません。
しかし、貸店舗や倉庫など非居住用である場合は消費税がかかります。
受け取った消費税は確定申告して納める必要があるため、貸店舗なども考えている場合は注意してください。
4-2. 利益が290万円を超えると個人事業税が課される
事業として賃貸経営を行っている場合、家賃収入から経費等を差し引いた課税所得の額が290万円を超えると、超えた部分に対して個人事業税が課されます。
税率は5%とそこまで高くありませんが、所得税や住民税とは別に税金がかかってしまうため注意が必要です。
4-3. 課税売上高が1,000万円を超えると消費税が課される
非居住用の物件の家賃収入に対して消費税が課されることはすでにお伝えしました。
しかし、消費税を受け取ったとしても課税売上高が1,000万円を超えていない場合は、非課税事業者となり消費税を納めなくても構いません。
この場合、非居住用分の家賃収入として消費税を受け取ったとしても、その分を自分の利益としてもよいこととされています。
一方、課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者として消費税を納めなければなりません。
ここでいう課税売上高とは、経費を差し引く前の数字です。
売上高が1,000万円を超えるか超えないかくらいという状況であれば、消費税に十分注意すべきだと言えるでしょう。
5. 家賃収入の税金は自分で計算して確定申告する
1年間の家賃収入と経費については、ご自身で計算して確定申告し、税金を納める必要があります。
ここでは、確定申告についてその時期や必要書類、方法などお伝えします。
5-1. 確定申告の時期
家賃収入に関する税金は、1月1日~12月31日の間に発生した収入について、翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告し、納める必要があります。
税務署で確定申告を行う場合、期間中は混むこと、基本的に平日しか窓口は開いていないことに注意が必要です。確定申告はインターネットで行うこともできます。
5-2. 確定申告の必要書類
不動産所得がある場合、確定申告時は以下の書類を用意してください。
- 不動産所得用の決算書(青色申告の場合)
- 不動産所得用の収支内訳書(白色申告の場合)
- 現金出納帳など収入の分かる書類
- 賃借人の氏名や受け取り家賃額が分かる資料
- 通常や領収書、請求書など経費の分かる書類
- 源泉徴収票(会社員の方)
- その他の所得がある場合、その所得が分かる書類
5-3. 確定申告の方法
確定申告の方法にはいくつか方法がありますが、ここでは税務署で申告する方法と、インターネット上で申告する方法の2つについてそれぞれ解説します。
5-3-1. 税務署で申告する方法
税務署で申告する方法では、記入を済ませた申告書を確定申告期間中に税務署に提出します。「税務署のサイト」からダウンロードして申告書を印刷するか、事前に税務署に行って申告書を受け取り、記入してください。
この方法では、期間中は税務署が混雑することに加え、基本的に窓口は平日しか開いていないため時間の確保が難しい場合があります。
なお、自治体によっては土日に別に特設会場を設けてくれることもあります。各自治体の税務署の営業時間は、事前に確認することをおすすめします。
5-3-2. インターネットで申告する方法
確定申告は、自宅でインターネットから行うこともできます。
インターネット上で申告するには、これまでは住民基本台帳カードなどをカードリーダーで読み取る必要がありましたが、2018年分より、事前に税務署に行きIDとパスワードを発行してもらうだけで行えるようになりました。
手順としては、「税務署のサイト」から申告書を作成し、提出するだけです。
具体的な進め方については、「e-taxのご利用方法」から確認できます。
ただ、税務署で申告する場合は申告書類について簡単にチェックしてもらえますが、インターネットではチェックを受けることができないため、不備がないように十分注意する必要があるでしょう。
5-4. 税理士に任せてもよい
家賃収入に関する税金については、所得が増えるほど手続きは複雑になっていきます。
「4-2. 利益が290万円を超えると個人事業税が課される」でもご紹介した通り、課税所得額が290万円を超えると個人事業税を納める必要がありますし、課税売上高が1,000万円を超えると、消費税を含めて確定申告しなくてはなりません。
もしご自身だけでは管理しきれない場合は、税理士に依頼する手もあります。
税理士に依頼すると報酬を支払う必要があります。しかし節税の方法についてアドバイスを受けることもできるので、所得額が増えるほど利用価値は上がると言えるでしょう。
なお、報酬については税理士や賃貸経営の事業規模によりまちまちですが、目安をお伝えします。
自分で毎月の取引を記帳するなど、手間をかけられるのであれば5万円程度から依頼を受けてくれる税理士もいるでしょう。
個人の方がこれから賃貸経営を始める場合、または始めたばかりの場合、一般的な相場としては5~20万円程度を想定しておくとよいです。
アパートやマンションの建築段階では、このような税金の知識について、ハウスメーカーや建設会社の担当者からアドバイスを受けながら進めていくことになるでしょう。
担当者が税金についてしっかりとした知識を持っているかどうかということも、建設会社選びにおける重要なポイントです。
まとめ
家賃収入の税金について、基本的な仕組みや計算方法、税率、注意点、確定申告の方法などを解説してきました。
不動産所得の計算については、経費として計上できるものと計上できないものを把握したうえで、経費として計上できない出費はできるだけ避けるなどすると効率を上げられるでしょう。
その他、利益が290万円を超えると個人事業税が、売上高が1,000万円を超えると消費税がかかることを知っておくと、利益や売上高を調整することで納税額を抑えられるケースがあります。
また、減価償却の知識など、やや理解の難しい項目については自分で勉強していくことも大切ですが、かなり複雑な計算が必要とされることもあるため、必要に応じて税理士や、建築段階の場合は建設会社の担当者のアドバイスを受けるとよいでしょう。
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