相続などでアパート経営を引き継ぐことになったら、まず経営状況を確認します。状況によって引き継ぎで必要となる対応は変わることに注意が必要です。
この記事では、相続などでアパート経営を引き継ぐ人向けに
- 引き継いだらすぐに確認すべき項目
- 引き継ぎに必要な手続き
を解説します。
引き継ぎの際に検討しておきたいことについても詳しく紹介します。
アパート経営を引き継いだ時に確認すべきことは?
相続で中古アパートを引き継いだ際、最初に確認すべきポイントは以下の8つです。
- 入居状況の確認
- 家賃設定と収入状況の確認
- 預り敷金の額の確認
- 管理会社と管理方式の確認
- 大規模修繕履歴の確認
- 今後発生する大規模修繕の内容の確認
- 借入金残高と返済予定表の確認
- 残りの減価償却費計上期間の確認
アパート経営引き継ぎの手続きには何がある?
アパート経営の引き継ぎには以下のような手続きをします。
- 管理会社へ連絡する
- 入居者へ連絡する
- ハウスメーカーに連絡する
- 銀行での手続き
- 相続に絡む手続き
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詳しい解説は以下
目次
1.アパート経営引き継ぎのチェックリスト
アパート経営の引継ぎで確認すべきことは以下の8点です。
以下でチェック項目を解説します。
1-1.入居状況の確認
まず確認すべきことは入居状況です。入居状況が分かれば経営がうまくいっているかどうかがある程度把握できるといっても過言ではありません。
健全なアパート経営の入居率は95%程度、空室率に換算すると5%程度です。
(入居率70~80%だとやや厳しく、入居率50%以下だとかなり苦しい状況)
【入居率の計算方法】
全入居月数 = 部屋数 × 12ヶ月
= 10室 × 12ヶ月
= 120ヶ月
年間空室月数 = A室(1ヶ月) + B室(3ヶ月) + C室(2ヶ月)
= 6ヶ月
空室率 = 年間空室月数 ÷ 全入居月数
= 6ヶ月 ÷ 120ヶ月
= 5%
入居率 = 1 - 空室率
= 1 - 5%
= 95%
次に半年以上の空室が続いている部屋がないかどうかを確認します。半年以上入居者が決まっていない場合、募集家賃や部屋の仕様、管理会社の対応等に問題があるケースがあります。
入居者がいる部屋に関しては、契約始期、契約期間、賃料、更新回数等を調べます。
長く借りてくれている入居者は賃料も高く、大切にすべきロイヤルカスタマーに該当します。温水洗浄便座やエアコンを交換する際、ロイヤルカスタマーを優先するなど優遇するとさらに長く入居し続けてくれるようになります。
長期入居への施策ができていると募集経費などの削減につながるため、安定経営が実現しているという見方ができます。
1-2.家賃設定と収入状況の確認
空室が半年続くような状態が続いていたら、募集家賃が周辺の類似の物件(立地、部屋の広さ、築年数等が近い物件)と比べて、高すぎないかどうかのチェックが必要です。
チェックしてみて家賃設定に問題があるようなら、管理会社と相談の上家賃の改定を図ります。
ただし、競合と競うように値下げをする措置は危険です。経営に影響が出ない家賃設定の下限もしっかり確認しておく必要があります。
1-3.預り敷金の額の確認
預かっている敷金は入居者が退去したら返還が必要です。
先代経営時に入居した借主が退去したら、引き継いだオーナーが自分の貯蓄の中から敷金を返還することになります。
退去はすぐに発生する可能性もあるため、すぐの敷金返却にも対応できるようにしておかなければなりません。そのため、敷金は過去の家賃滞納の有無と敷金から充当した額の履歴も含めて敷金の預かり額を確認しておきます。
ただし、「敷金償却(退去後も返さなくてよいお金のこと)」は返還不要です。
1-4.管理会社と管理方式の確認
管理会社との契約状況を確認します。稀に部屋によって管理会社を変えている場合や、入居者募集は管理会社以外の複数の不動産会社にも依頼しているケースもあります。
複雑な管理体制になっている場合、経緯や理由も調べておくとよいでしょう。
管理方式は収益性を決める重要な要素です。引き継いだアパートがどのような管理方式が採用されているのか確認するようにしてください。
アパートの管理方式は、主に「管理委託」「パススルー型サブリース」「家賃保証型サブリース」の3種類があります。それぞれの管理方法で収益性が変化するので引き継ぎ時にはその契約がいつまでかも確認しておき、その後を検討しておくのがおススメです。
アパートの収益性は管理方式が「管理委託またはパススルー型サブリース」なのか、もしくは「家賃保証型サブリース」かによって大きく異なります。
詳しく知りたい方は、「サブリース」の記事をご確認ください。
1-5.大規模修繕履歴の確認
アパートを引き継いだら、大規模修繕履歴の確認も必要です。
大規模修繕の履歴は多くの場合、管理会社が把握しています。
大規模修繕は、外壁塗装や排水管の高圧洗浄等などのことで、故障前に適切な処置を施すものです。
適切な時期に大規模修繕を施していなかった場合、早めに予防保全を行うべき箇所の修繕をする必要があります。
1-6.今後発生する大規模修繕の内容の確認
今後の大規模修繕計画の内容も管理会社に問い合わせてみます。
国土交通省は築年数別のアパートの大規模修繕費の目安を公表しており、そこから予測することも可能です。
大規模修繕の時期と内容、費用の一例を挙げます。
築年数 | 工事内容 | 戸あたり | 総額 |
---|---|---|---|
5~10年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装) 室内設備(修理) 排水管(高圧洗浄) |
約9万円 | 約90万円 |
11~15年目 | 屋根・外壁(塗装) ベランダ・階段・廊下(塗装) 給湯器(修理・交換) 排水管(高圧洗浄) |
約64万円 | 約640万円 |
16~20年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装) 室内設備(修理) 給排水管(高圧洗浄等・交換) 外構等(修繕) |
約23万円 | 約230万円 |
21~25年目 | 屋根・外壁(塗装・葺替) ベランダ・階段・廊下(塗装・防水) 浴室設備等(修理・交換) 排水管(高圧洗浄) |
約98万円 | 約980万円 |
26~30年目 | ベランダ・階段・廊下(塗装) 室内設備(修理) 給排水管(高圧洗浄等・交換) 外構等(修繕) |
約23万円 | 約230万円 |
参考:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」
大規模修繕は予定の時期と金額を把握し、計画的に実施していくことがポイントです。
1-7.借入金残高と返済予定表の確認
アパートを引き継いでも、アパートに紐づいた債務は自動で引き継がれません。引き継いだ人が銀行に連絡し、債務を引き継ぐ手続きをします。
債務を引き継いだら、銀行から返済予定表を受領します。返済予定表は、借入金残高と毎月いくら返済するか、返済はいつ終わるか等の情報が記載されたものです。
返済予定表を確認してみて、毎月の返済額がアパートの収益を上回ってしまっているようであれば、早急に対応することが必要となります。
1-8.残りの減価償却費計上期間の確認
アパートなど建物には法定耐用年数が設定されており、この期間中は所得税の申告時に減価償却費を経費として計上できます。減価償却費は少なくない額です。そのため、残りの減価償却費計上期間を確認します。
減価償却費はあと何年計上されるのか、また、耐用年数満了時以降も借入金の返済が続くのかどうかを確認するようにしてください。
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2.アパート経営引き継ぎの4パターン
アパート経営の引き継ぎとなると、相続での引き継ぎを連想するのではないでしょうか。
しかし、アパート経営は事業であり、そのほかの引き継ぎ方法もあります。ここでは以下の引き継ぎのパターンを紹介します。
2-1.相続
親から子へアパート経営を引き継ぐパターンでよく見られるのが相続での引き継ぎです。相続対策に土地活用、特に賃貸住宅経営が有効だということが一つの理由となり、よくあるパターンとなっています。
アパート相続の場合、引き継ぎは遺言書に基づき進めるか、法定相続人による遺産分割協議を経て次世代へ引き継がれます。
2-2.生前贈与
不動産を生前贈与する場合、相続時精算課税制度を利用するのが一般的です。
これは、贈与された財産に対し、本来は贈与時に課税されるもの(贈与税)を相続発生時に精算するという制度です。
この制度を活用するのは
- 将来的に不動産の価値の上昇が見込まれる
- 収益物件の収入を次世代に移して相続時の現金納税に備える
といったケースが考えられます。
2-3.事業承継
個人経営のアパート経営の場合、親世代のワンマン経営で長年続けられていることも少なくありません。そうした場合、相続による経営の引き継ぎではノウハウがうまく引き継げない可能性もあります。
この懸念を払しょくするためにアパート経営を事業として法人化し、経営を次世代に引き継がせる方法が事業承継です。
収入が1,000万円を超えている、10室以上の経営規模である、といった経営状態であれば、アパート経営の法人化を検討するタイミングだといわれています。
2-4.家族信託
家族信託とは民事信託の一種で、アパートの管理・処分の権限を家族や親族といった受託者に移行することです。委託者の意向に沿うかたちにはなるものの、経営を親世代から引き継げます。
家族信託は、認知症対策にも有効です。
正常な判断を欠いた状態になってしまうと財産であるアパートの処分などが難しくなります。その懸念を避けるために権限をあらかじめ移行しておきながら、受益は委託者である親世代に残すことが可能です。
3.アパート経営引き継ぎで必要な手続き
アパート経営の引き継ぎではさまざまな手続きが必要です。多くが名義を変更するために生まれる手続きで、忘れると運営に支障をきたすものもあります。ここでは、こうした手続きを相続のケースも含めて紹介します。
3-1.管理会社へ連絡する
多くの場合で、アパートの管理には管理会社を利用しています。
契約を結んで管理委託していることから、次の契約者は誰になるのか、金銭の授受はどこで行うのかを連絡しなければなりません。
このとき、必ず引き継いだ方が直接やりとりをします。管理会社によって得意とすることが異なるため、これまで契約していた管理会社とは経営方針が合わなくなる恐れもあるからです。相性も同様で、円滑にコミュニケーションをとれないとなると管理会社の変更も検討したほうがよいでしょう。
3-2.入居者へ連絡する
入居者とオーナーが顔見知りだったり、家賃の振込先が直接オーナー宛てだったりするときには、入居者にも経営を引き継いだ旨を伝える必要があります。
特に直接オーナーに家賃を振り込む場合には、間違いがないように早急に変更を伝えます。
3-3.ハウスメーカーに連絡する
アパートを建築したハウスメーカーにも連絡を入れます。近年のハウスメーカーは建築したアパートに長期保証を付けているケースも少なくありません。長期保証の名義を変更しておかないといざというときに利用できなかった、という事態に陥ります。
長期保証の有無を確認すると同時に契約期間と保証範囲を確認しておくとよいでしょう。
3-4.銀行での手続き
アパート経営にかかわる残債がある場合は、ローンを組んだ金融機関へ連絡を入れ手続きをします。
特に注意が必要なのが相続での経営引き継ぎの場合です。
遺産分割では、アパートローンなどマイナスの遺産も分割相続対象になります。分割せずに代償分割などで相続人のうち1人がアパート経営を引き継いだら、債務が引き継いだ相続人へと移行するよう手続きが必要です。
ローン返済は休みなく返済していかなければなりません。そのため相続人決定次第すぐに手続きに進めるよう手配しておくとよいでしょう。
3-5.相続での引き継ぎで必要な手続き
相続でアパート経営を引き継ぐときは手続きを確実に進めていかないと期限が決まっているものもあります。相続の手続きの代表的なものを紹介します。
3-5-1.相続登記
相続登記とは、不動産(土地と建物)の登記上にある名義を被相続人から相続人へ変更する手続きのことです。
古い登記のままの土地が荒れ放題のまま放置されることなどが社会問題となったため、2024年度からは登記変更の手続き期限が3年に設定される予定です。
3-5-2.遺産分割協議
被相続人が遺言書を残していなかったり、法定相続人の中に遺言書の内容に不服があったりする場合には、遺産分割協議を行います。不動産は分割相続が難しく、よく話し合う必要があります。
協議で決められた内容に基づき、相続を進めていきます。相続税の納税は相続が開始されたと認識した日から10ヶ月です。少なくとも期限を迎える1ヶ月前には協議を終えておくとよいでしょう。
3-5-3.準確定申告
準確定申告は、被相続人の亡くなった年の所得に対する申告を行うことです。多くの場合でアパート経営者は確定申告を行っています。
この期限は相続開始を知った日から4ヶ月です。相続人が代理で申告を行います。
4.アパート経営引き継ぎが決まったら検討すべきこと
アパート経営の引き継ぎは、経営にテコ入れするよい契機です。次の4点について検討すべきといえるでしょう。
- 管理方式および管理会社の切り替え
- リフォーム
- 建て替え
- 買い替えまたは売却
以下で解説します。
4-1.管理方式および管理会社の切り替え
アパートを引き継いだら、管理方式および管理会社の切り替えはぜひ検討したいポイントです。
特に次のようなケースでは、積極的に検討すべきです。
(a)立地条件が良く、入居率も95%以上なのに「家賃保証型サブリース」を採用しているケース
(b)6ヶ月以上入居者が決まらない部屋があるケース
ケースaにおいては、管理方式を見直した方が良く、管理委託またはパススルー型サブリースに切り替えたほうが収益性は高くなります。
管理会社選びのポイントについては『管理会社に関する記事一覧』の中で豊富なノウハウの詰まった記事を公開しています。ぜひご確認ください。
4-2.リフォーム
リフォームを施すことで空室改善につながるケースもあります。
6ヶ月以上空室が続いている部屋は、部屋の設備に問題があるかもしれません。そのような場合はリフォームで対応可能です。
新築当初は入居者を募集しやすいプランで建てられますが、時代の変化とともにニーズが変わることで旧式の設備のままでは徐々に貸しにくくなっていきます。よって、貸しやすい部屋に変えるためには、リフォームによって今のトレンドにあった部屋に変えることが必要です。
4-3.建て替え
アパートが老朽化し、空室が目立つような状況の場合には経営引き継ぎを契機に建て替えを検討することをおススメします。
建て替えることで、経営引き継ぎ後の不慣れな状態のときから問題を向き合うといった状況を避けられます。時代のニーズに合った物件とすることで入居率を上げられるだけでなく、減価償却費を経費として計上できるようになるのも経営に有利です。
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4-4.買い替えまたは売却
中古アパートは、買い替えまたは売却も選択肢の一つです。
引き継いだアパートを売却し、より良い立地の物件に買い替えれば、今後、さらに安定した賃貸経営ができます。
また、まとまった現金が必要となった場合や賃貸経営そのものが難しくなった場合には、買い替えではなく単純売却を検討します。
5.アパート経営の引き継ぎについても相談できるハウスメーカーを選ぶポイント
アパート経営の引き継ぎにはさまざまなパターンがあり、アパート築年数やオーナーの年齢によっても対応が異なります。同じ正解はないに等しく、引き継ぎを契機にそれぞれのパターンに合った経営のプランニングをすることが重要です。
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中古アパートを相続する時の情報以外にも、多くのオーナーの方々が知りたがっているマンション経営関連の情報について『アパート経営に関する記事一覧』にまとめています。
アパート経営の疑問を解決し、不安のないアパート経営への一歩を踏み出すための第一歩としてお役立てください。
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