
相続税は、大切な身内が他界したときに発生する税金です。そのため、相続税について、生前に家族で話にくい話題の一つです。
被相続人(相続財産を遺して亡くなった方)の方は、相続税対策等で相続に関する知見があっても、肝心の相続人に相続税の知識がないこともよくあります。
相続税については、一番良いのは被相続人が生存している間に、家族で良よく話し合うことが理想です。
そこで、この記事では、相続税の基礎知識について解説致します。被相続人と相続人の両方に読んで頂きたい内容になっています。
最後までお読みいただき、家族で相続の話をするきっかけにしていただければ幸いです。
目次
1. 相続税とは
相続税とは、人が亡くなったときに、その他界した人(被相続人)から財産の移転を受けた場合にかかる税金です。
相続税は、相続や遺贈(遺言によるもの)によって財産を取得した個人(相続人)に対して課される税金です。個人の税金であって、法人には課されません。
相続税は、その課税価格の総額が遺産に係る基礎控除額以下であれば、課税されないことになっています。
相続税の納税義務のある人は、日本全国で8%程度、土地価格の高い東京で12%程度と言われています。
つまり、約9割の人は財産を基礎控除額以上に保有しておらず、相続税は課税されていないということです。
よく話題に上る相続税・贈与税ですが、国税・地方税全体の税収においては、たった2.1%の割合しかない税金になります。
尚、相続税は現金で納めなければならないという特徴を有しています。
2. 対象となる相続財産
相続税は、原則的に被相続人の全ての財産に課税されます。
プラスの財産にも課税されますが、借入金のようなマイナスの財産も、相続の対象です。
相続の対象となる財産は、以下の通りです。
相続対象となるプラスの資産
- 預貯金
- 不動産
- 株式等の有価証券
- 貴金属
- 書画骨董
- 車
- 家財道具
- プリペイドカード
- 故人が保険料を払い契約者だった死亡保険金
- 故人の生前あるいは死後3年に内に金額が確定した死亡退職金
相続対象となるマイナスの資産
- 借入金
- 連帯保証等の保証債務
- 未納の税金
- 損害賠償
- 故人の営業上の未払い金(買掛金)等
また、例外的に一部の財産は相続税の対象とはなりません。相続税の対象とされない財産は以下の通りです。
相続税の対象とされない財産
- 相続人のもらった生命保険等の合計額のうち法定相続人1人当たり500万円までの額
- 相続人のもらった退職手当金等の合計額のうち法定相続人1人当たり500万円までの金額
- 墓所
- 仏壇
- 祭具
- 国等に寄付した財産
3. 相続税納税までの流れ
1 | 死亡届の提出 | 7日以内 |
2 | 遺言書の確認 | 3ヶ月以内 |
3 | 相続人の確定 | 3ヶ月以内 |
4 | 相続財産の全容を把握 | 3ヶ月以内 |
5 | 相続放棄・限定承認 | 3ヶ月以内 |
6 | 準確定申告 | 4ヶ月以内 |
7 | 遺産分割協議書の作成 | 10ヶ月以内 |
8 | 名義変更などの手続き | 10ヶ月以内 |
9 | 相続税の申告と納付 | 10ヶ月以内 |
10 | 遺留分減殺請求 | 1年以内 |
11 | 更正の請求期限 | 5年10ケ月以内 |
納税までの流れでポイントとなるのは「3ヶ月目」と「10ヶ月目」です。以下に相続が発生した時に相続人がとるべき流れを解説します。
3-1. 死亡届の提出から遺言書の確認
役所に死亡届を提出する期限は、死亡が分かったときから7日以内です。多くの場合で遺族は葬儀などの対応に追われる時期であり、葬儀社に代理提出を依頼するケースが多くあります。死亡届の取り扱いは葬儀社に相談するとよいでしょう。死亡届が提出されると情報は税務署にも共有されます。
葬儀や弔問の対応に追われる中でも、早めの対応を迫られるのが相続関連の手続きです。まずは、故人が遺言書を残しているか確認します。
遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言があり、公正証書遺言は公証役場に原本が保管されているものです。家庭裁判所での検認手続きは必要ありません。
自筆証書遺言は、2020年以前は原本を自己管理する必要があり、死後の開封には検認手続きも必要でした。しかし、2020年7月から自筆証書遺言書保管制度の開始によって、法務局に保管できるようになり、法務局保管の場合は検認手続きが不要になっています。
3-2. 相続人の確定と相続財産の全容を把握
相続人を確定させるには、故人の出生からの戸籍謄本を取り寄せる必要があります。
同時に相続財産調査を進め、預貯金や借入金、不動産などの遺された財産の全容を把握しなければなりません。正確に相続財産を把握しなければ、相続税の計算が正しく行われず、追徴課税される可能性もあります。
全容の把握とともに、財産目録の作成も進めます。
3-3. 相続放棄・限定承認
相続放棄もしくは限定承認をする場合には「3ヶ月目」までが期限となります。
相続放棄とは、相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない相続のことを言います。
被相続人のマイナス財産が明らかに大きい場合には相続放棄を選択することがあります。
相続放棄は、もともとは被相続人の借金の相続を免れるための制度ですが、実際には特定の相続人に自分の相続分を譲るために利用する人も多いです。
例えば、一昔前だと相続人が息子1人、娘2人のような兄弟で構成されている場合、息子1人に家督を継がせるために、嫁いでいる娘2人が相続放棄を行い、息子1人に財産を集中させるというケースが良く見られました。
限定承認とは、被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ相続方法です。
被相続人の全財産が3ヶ月以内に調べきれず、マイナス財産もかなりありそうな場合には、限定承認を選択することもあります。
3-4. 準確定申告
亡くなった年に故人名義の所得があった場合、死亡が判明した時点(相続開始日)から4ヶ月以内に準確定申告をしなければなりません。1月1日から亡くなった日までの所得を申告します。
準確定申告をするのは相続人です。相続人が複数いる場合は連署で提出するか、別々に提出するかたちをとります。
3-5. 遺産分割協議書の作成と名義変更などの手続き
納税のタイミングまでに遺産分割協議書の作成と名義変更の手続きなども終わらせておくことが理想的です。
財産の全容が把握でき財産目録をまとめたら、遺産分割協議を行います。協議の結果をまとめたものが遺産分割協議書です。遺言書がない、一部相続財産の記載漏れがあった、遺言書が無効になったなどの場合に作成します。
名義変更で手間取るのは多くの場合で土地の相続登記です。もし、売却などを検討している場合は早めに対処しておかないと、故人名義のままでは売却できません。
遺産分割協議書の作成と名義変更の手続きに関しては、法的な期限はありません。遺産分割で揉めた場合には、とりあえずそのまま10ケ月以内に申告と納税をすることになります。
3-6. 相続税の申告と納付
相続税の申告は税務署にします。申告に基づき相続税の納付を現金でしなければなりません。
相続開始後、10ケ月を過ぎてしまうと、相続税を軽減してくれる特例が使えなくなります。そのため遺産分割と名義変更が未了でも、とりあえず相続税だけは支払っておくようにしてください。
尚、相続税については、法定申告期限(10ケ月)から5年以内に限り更正の請求をすることが可能です。
10ヶ月以内に支払った税金が、実は払い過ぎていたことになれば、後から還付請求をして取り戻すことができます。
相続開始後10ヶ月というのは、決して十分な時間ではありません。相続税のことが良く分からず、払い過ぎてしまうということもあり得ます。そのため納税者には更正の請求という権利が認められます。
税理士に頼んだとしても、不慣れな税理士だと過払いしている場合もあります。相続税の納税者の方は、更正の請求もしっかり活用するようにしましょう。
4. 相続人と法定相続分
相続人は民法によって相続分が決められています。
まず、配偶者は常に相続人となります。配偶者以外は、相続人になり得るものは順位が以下のように決まっています。
第1順位 ─ 子またはその代襲相続人(孫)
第2順位 ─ 直系尊属(父母)
第3順位 ─ 兄弟姉妹又はその代襲相続人(甥・姪)
相続人と法定相続分の関係は以下のようになります。
相続人 | 法定相続分 | |
---|---|---|
配偶者と子供の場合 | 配偶者 1/2 | 子供 1/2 |
配偶者と直系尊属 | 配偶者 2/3 | 直系尊属 1/3 |
配偶者と兄弟姉妹の場合 | 配偶者 3/4 | 兄弟姉妹 1/4 |
子供が複数人居る場合は、その子供間で均等に分けます。配偶者と子供3人の場合には、以下のようになります。
配偶者 | 1/2 |
子供それぞれ | 1/2 × 1/3 = 1/6 |
尚、相続分の中には、遺留分というものがあります。遺留分は、被相続人の贈与または遺贈によって奪うことができない部分のことです。
遺贈とは遺言によって、財産を相続人以外の者におくることを指します。
遺留分は、相続人中の一定の者に留保された相続財産の一定の割合が以下のように決められています。
- 直系尊属のみが相続人であるときは1/3
- その他の場合は1/2
例えば、相続人が配偶者と子である場合の遺留分は、それぞれの相続分の1/2が遺留分となります。
相続においては、遺言によって遺留分を侵害しない範囲で法定相続分と異なる配分をすることも可能です。
遺言は一般用語としてユイゴンと言いますが、法律用語としてはイゴンと言います。ユイゴンもイゴンも同じ意味になります。
5. 続税の基礎控除額とは
相続税は発生するか否かは、被相続人が基礎控除額以上の財産を持っているかどうかで決まります。
そのため、基礎控除額を理解することはとても重要です。
相続税の納税義務者が全国で8%程度であるため、約9割の人は基礎控除額を超える資産は持っていないことになります。
基礎控除額については、以下の式で算出されます。
基礎控除額 = | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
例えば、相続人が妻1人、子供1人である場合を考えます。すると、基礎控除額は以下のように計算されます。
基礎控除額 = | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 3,000万円 + 600万円 × 2人 3,000万円 + 1,200万円 4,200万円 |
この場合、被相続人が4,200万円以上の資産を持っていれば基礎控除額を超えた部分に対し、相続税がかかることになります。相続に関しては、子供の数が少ないと、基礎控除額も減るため、納税義務は発生しやすくなります。
例えば、都内で一戸建てを持っている人であれば、退職金をもらった直後は基礎控除額を軽く超えてしまう人は結構います。
但し、相続財産は、被相続人が他界した時点の財産です。特に、退職金などの現金については、今後の老後の生活で大きく減っていく可能性があります。
最終的には9割程度の人は、基礎控除額を下回った形で他界されるため、多くの人が相続税は発生しない形となっています。
結果的に、相続税の納税義務が発生する人は、老後に資産が目減りしない不動産を持っている人の方が多くなります。被相続人の資産の割合は、現金よりも不動産の割合が高い人の方が多いです。
そのため、相続税と不動産は切っても切れない関係にあるのです。
6. 相続税の計算方法
相続税の計算を以下に示します。
6-1. 課税価格の計算
課税価格は、被相続人の総資産のことを指します。
課税価格は以下の計算式で表されます。
課税価格 = 相続税に係る財産の価格 - 債務および葬儀費用 + 死亡前3年以内に贈与された生前贈与財産の価額
6-2. 課税遺産総額の計算
次に課税遺産総額を計算します。課税遺産総額は、以下の式で表されます。
課税遺産総額 = 課税価格 - 基礎控除額
※基礎控除額は以下のようになります。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
6-3. 相続税総額の計算
後に相続税総額を計算で用いるため、ここで求め方を示します。
相続税総額は、最初に各人の法定相続分に対する税額を求め、次にそれを合計するという2つの手順で求めます。
各人の法定相続分に対する税額 = 課税遺産総額 × 法定相続の割合 × 相続税率 - 控除額
第二手順:相続税総額
相続税総額 =「各人の法定相続分に対する税額」の合計
第一手順で使う相続税率と控除額は以下の通りです。
決定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
6-4. 納付税額
最後に納付税額を計算します。納付額は各人ごとに異なります。
前節で求めた相続税総額に、全体の資産価格に対する各人の実際に取得した財産の割合を乗じることで、各人の相続税額を算出します。
さらに、それぞれにおいて控除できるものがあれば、税額から各人の控除を行います。
納付税額 = | 相続税総額 ×(各人の実際に取得した財産の課税価格 ÷ 課税価格の合計額)- 各控除 |
ここで各控除として、重要なものに配偶者控除があります。
配偶者控除は以下の式で計算されます。
配偶者控除額 = 相続税の総額 ×(次のABのいずれか少ない金額 ÷ 課税価格の合計額)
A:課税価格の合計額×配偶者の法定相続分(最低1億6千万円)
B:配偶者の実際に取得した財産の課税価格
配偶者は配偶者控除が適用されるため、法定相続分以内であれば相続税はかかりません。
また、法定相続分を超えたとしても、1億6千万円までは相続税は発生しないことになります。
7. 不動産の相続評価額の基本
相続財産のうち、現金を1,000万円持っていれば、その現金の価値は誰が見ても1,000万円ということは明確です。現金は現金の金額がそのまま相続税評価額となります。
一方で、不動産は、実際には売却してみないとその価値が本当にいくらなのか正確には分かりません。しかしながら、相続で全ての財産をいちいち売却することは非現実的です。
そこで、不動産に関しては、「評価」と言う方法を取り、その財産価値を把握します。
評価方法は、人によって評価額が異なると税の公平性を損なうため、ルールに従い機械的に評価額が求められます。
不動産の評価方法は、建物と土地に分かれます。
建物に関しては、固定資産税評価額が相続税評価額となります。固定資産税評価額は、毎年送られてくる納税通知書に記載された評価額のことを指します。
納税通知書に建物の固定資産税評価額が500万円と記載されていたら、相続税を計算する上での財産価格は500万円ということになります。
注文住宅などでも、新築の請負工事代金が2,000万円した建物でも、固定資産税評価額が1,000万円程度になっていることがあります。
そのような場合でも、相続税評価額は、固定資産税評価額の1,000万円が採用されます。
固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税納税通知書の中に記載されている評価額もしくは価格と記載されているところに書かれている数字になります。
一方で、土地については相続税路線価で評価されます。相続税路線価とは対象となる土地の前面道路に割り振られている単価(千円/平米)を用います。
相続税路線価は、概ね地価公示価格の80%です。地価公示は国が毎年1月1日時点で公表している定点観測ポイントの土地の価格です。
地価公示は、一応、時価という前提で公表されているため、路線価は時価の80%の価格ということになります。
実際に売却したら1,000万円の土地であっても、相続税路線価で評価すると800万円になるというイメージです。
尚、路線価は、国税庁ホームページの財産評価基準書路線価図・評価倍率表から確認出来ます。
8. 小規模宅地等の軽減は真っ先に、チェックするべき
相続税を納める人であれば、知っておかなければならない重要な特例があります。
それは「小規模宅地等の特例」です。
小規模宅地等の特例は、一番減額効果の高い特例であるため、まず小規模宅地等の特例が使えないかどうかを真っ先に検討するのが基本です。
小規模宅地等の特例は、一定の要件を満たす自宅であれば、330平米までの部分は、その敷地の評価額を80%減額してくれるという特例です。
一定の要件を満たす住宅を「特定居住用宅地等」と呼びますが、その定義は以下のようになります。
- 被相続人と同居していた親族で、次の要件をすべて満たすもの
イ. 相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住していること
ロ. その宅地等を相続税の申告期限まで有している人 - 被相続人と別居の親族で、次の要件をすべて満たすもの
イ. 相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがないこと
ロ. その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
ハ. 被相続人の配偶者または上記1.イの家屋に居住していた被相続人の法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと - 被相続人と生計を一にしていた親族で、次の要件をすべて満たすもの
イ. 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住していること
ロ. その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
小規模宅地等の特例が適用できることによって、相続税の納税義務がなくなる人はたくさんいます。まずは、要件に合致していないかどうかを確認するようにして下さい。
9. 広大地の評価は税金が安くなる可能性あり!
土地の中には、標準的な宅地に比べて著しく広大な宅地の場合には、広大地評価を適用できる場合があります。
著しく広大な宅地とは、以下の面積以上の土地を指します。
イ. 市街化区域、用途地域が定められていない非線引都市計画地域
(イ)市街化区域 三大都市圏 500平米
それ以外の地域 1,000平米
(ロ)用途地域が定められていない非線引都市計画区域 3,000平米
ロ. 用途地域が定められている非線引都市計画区域 イ(イ)と同様
上記の要件を満たす土地で、戸建住宅の開発分譲用地となり得る敷地は、広大地の特例が適用でき、評価額が落ちます。
一方で、広くてもマンションが建つような土地であれば、広大地の評価は適用できません。
戸建住宅しか建たないような第一種低層住居専用地域に広い土地をお持ちの方は、広大地評価をすれば、評価額が落ちる可能性があります。
このような広い土地をお持ちの方は、アパート建築等を行う以前に、広大地評価で財産評価額を落とせないかどうかを検討することをお勧めします。
広大地評価で評価額を落として、相続税の納税義務が発生しないようであれば、無理に土地活用を行う必要はないと判断することもできます。
10. 土地活用と相続対策
アパートなどは相続対策で建築されることが多いですが、土地活用は相続対策となります。
例えば、元々保有している土地の上に、ローンを組んでアパートを建てて人に貸すことを考えます。
アパートの建築費用が6,000万円だとした場合、フルローンでアパートを建築すると▲6,000万円の借入金が発生します。
6,000万円で建てたアパートに関しては、被相続人の新たな資産となります。
建物の相続評価額は固定資産税評価額となりますが、この固定資産税評価額は新築請負工事代金の概ね50%程度です。
このケースでは、アパートの固定資産税評価額が3,000万円であると仮定します。
建物の相続税評価額に関しては、他人に建物を貸すと、「借家減割合による評価減」が適用されます。借家権割合とは、全国一律で30%です。
借家減割内による評価減 = | 建物固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合) |
そのため、固定資産税評価額が3,000万円のアパートの相続税評価額は、2,100万円(=3,000万円 ×(1-30%))となります。
▲6,000万円の借入金によって、新たなアパートを建築すると、2,100万円のプラスの資産ができることになります。
つまりアパートを建てるだけで、▲3,900万円(=2,100万円-6,000万円)のマイナスの資産ができます。
さらに、アパートが建った土地に関しては「貸家建付地評価減」が適用されます。
貸家建付地 = | 路線価評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合) |
例えば、借地権割合が60%の土地であれば、貸家建付地は路線価の82%(=1 - 0.6 × 0.3)となります。
相続税路線価が1,000万円の土地であれば、820万円に評価されるのです。
このように、アパートのような収益物件の建築は、被相続人の相続財産を減額する効果を生み出します。
さらに減額を生み出すだけでなく、プラスの家賃収入も生み出してくれるため、一石二鳥と言えます。
尚、建物の「借家権割合による評価減」と土地の「貸家建付地評価減」に関しては、アパートだけに限りません。他人に貸している物件は全て適用されます。
区分所有のワンルームマンションや、ロードサイド店舗、老人ホーム等の収益物件は全て相続対策の効果があります。
相続対策効果は建物を建てて人に貸す収益物件であれば全てに発生しますので、土地活用をする際は、その土地に見合った活用方法を選択すれば良いのです。
アパートを活用した相続税対策についてもっと知りたい方はこちら
11. 相続税対策の3つのポイント
相続税対策には、税額そのものを小さくするための「節税対策」と、相続人の納税資金を確保するための「納税対策」、財産を相続人間で分ける「分割対策」の3つがあります。
この章では、それぞれの対策についてご紹介します。
11-1. 節税対策
節税対策とは、被相続人の保有している資産の相続税評価額を減額し、納税額そのものを減らす対策です。
土地活用などは、典型的な節税対策と言えます。例えば、土地は時価の80%相当額である路線価で評価されるため、現金を土地に替えるだけでも相続税対策になります。
また借入金も相続対策になります。相続対策においては、現金を多く持っている人でも、あえて借入金を使うことをお勧めします。
例えば、現金を6,000万円持っている人が、現金を使って6,000万円のアパートを作ってしまうと、相続財産に現金が全くなくなってしまいます。
相続税は現金で納めなければならないため、相続人がアパートだけもらっても相続税が払えないことがあります。
一方で、借入金を使えば現金を残しておくことができます。
現金を6,000万円持っている人でも、あえて借入金6,000万円を使ってアパートを作った方が、現金の納税資金も残せるため、財産をきちんと守ることができるのです。
節税対策では、借入金を上手く活用することもポイントです。
11-2. 納税対策
納税対策とは、相続人が相続税を納めることのできる資金を確保しておくという対策です。
相続税は、現金で納めなければならないというルールがあるため、資産を守るには、相続人が納税できる現金を持っていなければなりません。
物納は、相続人に納税資金が無いと証明されたうえで始めてできる納税方法なので、簡単にはできないと理解しておく必要があります。
6,000万円持っている人が6,000万円全てを使ってアパートを建ててしまうと、現金が全く残りません。このような対策は、節税対策にはなっていたとしても、納税対策にはなっていないと言えます。
借入金は現金を残しながら節税対策をすることができるため、納税対策にもなります。
また、納税対策として典型的な方法としては、暦年贈与があります。暦年贈与は、1年間に110万円までであれば、贈与税が非課税となる制度です。
相続人に毎年110万円ずつ渡すことで、相続人に納税資金用の現金をストックさせ、被相続人の資産を徐々に減らしていきます。暦年贈与は被相続人の資産が減り、相続人の納税資金が増えるため、有効な対策です。
相続の納税のことを考慮すると、被相続人の資産の割合で不動産が多い人は、相続人の相続税がきつくなるパターンと言えます。
相続人は不動産だけをもらっても、納税できないため、相続人の貯蓄の中なら一度に税金を払うことになります。
そのため、もし相続財産の中に不動産が多く、相続人に納税資金が無い場合には、生前中に不動産を売却しておくというのも、対策としては有効です。
売却では、譲渡所得が発生し、所得税および住民税が発生します。しかしながら、現金は相続後、それがそのまま納税資金にもなりますし、相続人の間で分割も容易です。
納税対策も含めて考えると、必ずしも活用だけが相続対策とは言い切れません。借入金の活用や売却等、納税対策の考慮に含めて相続対策する必要があります。
11-3. 分割対策
相続人の間で、資産を分けやすくする対策を分割対策と言います。
分割対策は、相続対策の中でも中核をなす対策であり、近年の相続対策は分割対策から考えていくのが基本となっています。
相続では、財産が相続人の共有状態で引き継がれます。
現金であれば1円単位で綺麗に分割することができますが、平等に分割できないのが不動産です。
不動産も何もしなければ共有での相続となります。
共有でも当面は問題ありませんが、共有物件は物件を売却する際、共有者の全員の同意を必要とするため、将来的に処分しにくくなるというデメリットがあります。
現実には、相続で共有状態をそのまま放置し、その後、2次相続、3次相続が発生して気が付いたら30名以上の共有者で一つの物件を持っているという事例も存在します。
多人数の共有物件になると、売却まで話をまとめるのがとても大変です。
共有者の中で、固定資産税課税がかかるため、早く売却したいと思っている人が過半数を占めていたとしても、1人でも反対者がいれば売却できないことにもなりかねません。
このような状況を避けるためには、相続後、不動産はそれぞれ単独で所有することが望ましくなります。
分割対策としては、なるべく資産を分けやすい形にするという点がポイントです。
例えば、同じ不動産でもアパート1棟よりは、区分のワンルームマンションを数戸購入した方が、分けやすくなります。
また、1つだけ大きな不動産を持っていると、資産が誰かに偏ってしまう停め、売却して複数の不動産に買い替えるか、そのまま現金として保有しておくというような選択肢も出てきます。
売却すると支障があるような大きな資産であれば、遺言で特定の相続人にその大きな資産を引き継がせる方法もあります。
但し、その際は他の相続人に遺留分を残す必要があるため、別の資産で遺留分を確保しておくことが必要です。
結局のところ、節税対策や納税対策だけでは片手落ちとなり、相続対策は分割対策まで考えないと完成しません。
相続対策は、1番目に分割対策、2番目に納税対策、3番目に節税対策の順で考えると、3つのバランスが上手く取れるようになります。
3つの対策をバランスよく取りながら、家族全員が納得のいく相続対策を行いましょう。
土地の相続税対策も知っておきたい方はこちら
まとめ
いかがでしたか?相続税について解説してきました。
相続税の納税義務のある人は、相続開始後10ヶ月以内に納税と申告をする必要があります。
相続税の納税義務があるかどうかは、まず被相続人が基礎控除額を超える財産を持っているのかがポイントとなります。
相続する資産の中では、不動産については評価額が算定の基礎となります。
不動産に関しては小規模宅地の特例や広大地の評価等、評価額を下げる特例も多くあり、上手く活用することで相続税を節税することが可能です。
また不動産は、活用することによっても相続税対策を行うことができます。
相続対策には、節税対策と納税対策、分割対策の3つの対策がありました。
相続対策は、3つの対策のバランスを取りながら実行することをお勧めします。
この記事のポイント まとめ
相続税とは、人が亡くなったときに、その故人(被相続人)から財産の移転を受けたときにかかる税金です。
相続税の詳しい解説は「1.相続税とは?」でご確認ください。
相続税の手続きは以下のような流れで進めます。
- 死亡届の提出から遺言書の確認
- 相続人の確定と相続財産の全容を把握
- 相続放棄・限定承認の手続き
- 準確定申告の手続き
- 遺産分割協議書の作成と名義変更などの手続き
- 相続税の申告と納付
中には期限がある手続きもあります。「3.相続税納税までの流れ」でご確認ください。
相続税の基礎控除額を算出するときは以下の計算式を用います。
- 基礎控除額 =3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
基礎控除額よりも相続財産が少なければ相続税の手続きは必要ありません。基礎控除額については「5.相続税の基礎控除額とは」で詳しく解説しています。
相続税の算出には複数の計算式を用いる必要があります。
- 課税価格 = 相続税に係る財産の価格 - 債務および葬儀費用 + 死亡前3年
- 課税遺産総額 = 課税価格 - 基礎控除額
- 各人の法定相続分に対する税額 = 課税遺産総額 × 法定相続の割合 × 相続税率 - 控除額
- 納付税額 = 相続税総額 ×(各人の実際に取得した財産の課税価格 ÷ 課税価格の合計額)- 各控除
詳しい計算方法については「6.相続税の計算方法」でご確認ください。
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