省エネに特化した「ZEH(ゼッチ)住宅」という付加価値をつけて賃貸経営を差別化することが今注目されています。
この記事では、ZEH賃貸の特徴、メリット、デメリットから補助金まで分かりやすく解説します。
ZEH(ゼッチ)、ZEH-M(ゼッチマンション)とは、以下の要素からなる高性能住宅のことです。
- 高断熱
- 省エネ(高性能)
- 創エネ
詳しい定義とZEHとZEH-Mの違いについては「1.ZEH(ゼッチ)、ZEH-M(ゼッチマンション)とは?」で図解を交えて解説しています。
つくった電力は自家消費し、余った分は電力会社へ売電するのが基本的な仕組みです。売電収益には2つの方法が考えられます。
- オーナーだけが受け取る
- 入居者に還元する
詳しくは「3.ZEH賃貸の売電収入は誰がもらえるの?」でも解説しています。
- 快適性がアップし、高稼働が見込める
- 発電収入により安定的に収益が得られる
- 補助金制度がある
- ZEH-Mマークを使ってアピールできる
- 環境にやさしく、社会貢献できる
それぞれのメリットについては「4.ZEH賃貸の5つのメリット」でご確認ください。
- 建築コストが上がる
- ZEH賃貸が建てられる建築会社は限られている
デメリットとなる理由は「5.ZEH賃貸の2つのデメリット」で詳しく解説しています。
目次
1. ZEH(ゼッチ)、ZEH-M(ゼッチマンション)とは?
ZEH(ゼッチ)とは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House)」の略で、「一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」のことです。
本記事では、ZEHの賃貸アパート・賃貸マンションを、この記事では分かりやすく「ZEH(ゼッチ)賃貸」と記載します。
1-1.ZEHの定義
ZEHと呼ばれるには、「高断熱」「省エネ」「創エネ(太陽光発電)」という3つの要素を満たさなければなりません。
- 高断熱
-
快適な住空間を高温、低温から守る断熱性の高い建物であること。高断熱が消費エネルギーを減らす効果につながる。
外壁や屋根などに高機能な断熱材を使う。窓枠には樹脂素材、複層ガラス(ペアガラス)など用いる。 - 省エネ(高性能)
-
高効率給湯器(エコジョーズ、エネファーム、エコキュート)を使う。エネルギー変換が高効率のエアコン、床暖房、換気設備、LED照明などを設置する。
- 創エネ
-
屋根に太陽光パネルを設置するなど、住宅に再生可能エネルギー利用の発電施設を導入する。創り出した電力は自家消費もしてピークシフトに貢献する。
1-2.ZEHと異なるZEH-M(ゼッチマンション)の特徴
ZEH-Mでは集合住宅に対する基準のことで、マンションなどの集合住宅の規模がまちまちであることから、評価基準を4つに分けているのが特徴です。
- ZEH-M
- Nearly ZEH-M
- ZEH-M Ready
- ZEH-M Oriented
以下は、住棟単位(専有部と共有部両方を考慮)の評価基準ですが、住戸単位(専有部分の各戸を考慮)の評価基準もあります。アパート・マンション経営で1棟建てる場合に考慮すべきは以下の住棟単位のほうです。
ZEH-M | Nearly ZEH-M | ZEH-M Ready | ZEH-M Oriented | |
---|---|---|---|---|
強化外皮基準 (外壁、屋根、窓部分) |
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一次エネルギー消費量削減基準 |
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再生可能エネルギー導入(創エネ) | 再生可能エネルギー導入(容量不問) |
資源エネルギー『ZEHの定義(改訂版)<集合住宅>』参照
2. ZEH賃貸(ZEH-M)で利用できる補助金制度と注意点
政府は地球温暖化対策の一環として、普及促進を進めており、具体的に「2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」という政府目標が設定されています。
そのため、目標達成を目的とした補助金事業は今後も続いていくことが見込まれています。
2-2.ZEH-M対象の補助金
一定の基準を満たしたZEH-Mについては、建築費に対する補助金の交付を申請できます。
補助の内容は、階数に応じて3種類に分かれており、達成すべき省エネ基準が階数ごとに異なります。(2021年度現在)
超高層ZEH-M実証事業 | 集合住宅の省CO2化促進事業 | |
---|---|---|
高層ZEH-M支援事業 | 低中層ZEH-M支援事業 | |
住宅用途部分が21層以上 | 住宅用途部分が6層以上20層以下 | 住宅用途部分が5層以下 |
全住戸において強化外皮基準 省エネ基準から-100%以上 |
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ZEHデベロッパーが携わり、BELSを用いて広報活動などを行うこと (申請は原則として1棟ごと) |
- 低中層ZEH-M(住宅部分が5階建て以下)
-
補助額は50万円×戸数、かつ上限6億円(1件あたり)
低炭素化素材使用などで定額加算あり
蓄電システムは2万円/kWh(上限20万円/戸かつ経費の1/3以内) - 高層ZEH-M(住宅部分が6階建て以上20階以下)
-
補助額は対象経費の2分の1以内、かつ上限8億円(1件あたり)
- 超高層ZEH-M(住宅部分が21階建て以上)
-
補助額は対象経費の3分の2以内(2カ年目以降は1/2以内を予定)
以上のように、要件はとてもわかりにくいので、ZEHデベロッパーと呼ばれるハウスメーカーと相談しながら補助金の対象となるよう建築プランを練り上げる必要があります。
以下は、「HOME4U オーナーズ」と提携しているZEHデベロッパーの一部企業です。
ZEH賃貸に対応できる提携企業の一例
どZEH賃貸をご検討の方は「HOME4U(ホームフォーユー) オーナーズ」をぜひご活用ください。ZEH賃貸が実現できる多くのZEHデベロッパーと提携しているため、一度の請求で複数社に建築プランを依頼できます。
2-3.補助金申請のスケジュールと注意点
ZEH-Mの国の補助金事業は公募制で、審査を通らなければ補助金を受け取ることはできません。補助金事業のスケジュールは以下のようになっています。
公募期間は、高層ZEH-M支援事業は6月ごろ、低中層ZEH-M促進事業は5月ごろと例年決まっています。交付決定は公募期間終了から1ヶ月程度後です。
これらの補助金申請はZEHデベロッパー(ハウスメーカー)が担うことが多く、初期の段階から信頼できるZEHデベロッパーと二人三脚で進められれば、補助金交付までスムーズに進められる可能性が高まります。
また、ZEH賃貸に対する補助金制度は、ZEH賃貸の普及を促進するための期間限定の支援であり、ZEHの普及が進めば補助金制度は縮小したり無くなったりする可能性もあります。
ZEH賃貸を検討する場合は、早めに建築会社に相談することをおすすめします。
3.ZEH賃貸の売電収入は誰がもらえるの?
ここで、ZEHの太陽光で発電して得られた収入(売電収入)を誰がもらえるかについて解説します。
売電収入はオーナーが受け取る方式と、入居者に還元する方式があります。
また、ZEH賃貸で導入される規模は50kWを超えないことがほとんどなので、発電量の全量買取方式ではなく、余剰電力の買取方式になります。
3-1.オーナーだけが受け取る方式
余剰電力を売った収入を全てオーナーが受け取れば収益性がアップし、修繕費に充当したり次の投資資金に充てたりすることができます。
この場合、入居者は売電収入を受け取れませんが、建物や設備の性能が高いので光熱費を削減でき、快適で健康な暮らしが可能になるというメリットは享受できます。
3-2.入居者だけに還元する方式
入居者が消費せずに余った電力を売電して収入を受け取る方式なら、高い付加価値をアピールして入居募集を行うことができ、稼働率アップが見込めます。
そのぶん高めの賃料設定が可能ですが、あまり賃料を上乗せしすぎないほうがメリットを感じてもらいやすく、高い入居率を長期にわたって維持しやすくなります。
その他、オーナーと入居者の両方に売電収入を分配し、互いにメリットを感じられる方式も可能です。
ただし、ZEHデベロッパー(ハウスメーカー)によっては、特定の方式しか選べない可能性もあるので、売電収入の受け取り、還元方式については企業選びの段階で確認しましょう。
4.ZEH賃貸の5つのメリット
ZEH賃貸のメリットは、次の5つです。
- 快適性がアップするので高稼働が見込める
- 発電収入により安定的に収益が得られる
- 補助金制度がある
- ZEH-Mマークを使ってアピールできる
- 環境にやさしく、社会貢献できる
それぞれどのような効果をもたらすか、解説します。
4-1.快適性がアップするので高稼働が見込める
ZEH賃貸は建物の断熱性が高いので、夏は涼しく冬は暖かく、快適に暮らしやすくなります。
部屋ごとの急激な温度変化による体への負担が少なく、ヒートショックのリスクを減らせるので高齢者にも安心です。
また、湿度の差も小さいので、結露やカビの発生が抑えられるのも入居者にとって大きな魅力となるでしょう。
ZEH賃貸に住むことによって、入居者は普通に暮らしているだけで無理なく光熱費を削減できます。
4-2.発電収入により安定的に収益が得られる
オーナーが売電収入を受け取る方式のZEH賃貸は、太陽光発電による収益力アップが魅力となります。
ZEH賃貸は、高断熱・省エネ設備によって建物内の消費エネルギーを抑えつつ、使い切らなかった分の電力を売電する仕組みです。
余剰電力は、電力会社が一定期間決められた価格で買い取る「固定価格買取制度」で売電でき、空室リスクに関係なく安定的に収入を得られます。
4-3.補助金制度がある
ZEH賃貸は、建築費についての補助金制度があります。
太陽光発電など発電設備を導入するための初期コストが必要ですが、費用の一部の補助が得られれば大きなメリットになります。
4-4.ZEH-Mマークを使ってアピールできる
建物性能の高さについて客観的に表示するため、BELS(ベルス:建築物省エネルギー性能表示制度)という制度があります。
2018年から、BELSにおける「ZEH-Mマーク」の表示が可能になりました。
ZEHの基準を満たした賃貸住宅は、「ZEH-Mマーク」を使って住宅の性能を客観的に表示し、入居者の募集広告などでわかりやすくアピールできます。
4-5.環境にやさしく、社会貢献できる
ZEH賃貸では、入居者が我慢して環境にやさしい生活をするのではなく、住宅の性能を高めることで無理なく省エネが実現できます。
性能が高く環境に配慮したZEH賃貸を建てることは、大きな社会貢献になります。
5.ZEH賃貸の2つのデメリット
ZEH賃貸のデメリットは、
- 建築コストが上がること
- ZEH賃貸が建てられる建築会社は限られていること
の2つが挙げられます。どちらも建築会社選びが重要となるポイントです。
5-1.建築コストが上がる
ZEH賃貸の主なデメリットは、一般的な賃貸住宅よりも建築費が高めになることです。
太陽光発電設備を導入しつつ、建物の断熱性と設備の省エネ性能も向上させる必要があるため、初期投資が高めになるのは避けられません。
ただし、補助金制度が利用できれば負担が軽減されますし、長期的に考えると太陽光発電収入が得られる、高稼働などによってカバーが見込めるので、建築コストが割高でも回収は可能です。
5-2.ZEH賃貸が建てられる建築会社は限られている
ZEHの集合住宅に積極的に取り組む「ZEHデベロッパー」として公表されている建築会社・ハウスメーカーは年々登録が増えているものの、全国で215社(2023年10月26日時点)と数は限られています。(一般社団法人環境共創イニシアチブ「ZEHデベロッパー一覧検索」)
なお、「ZEHビルダー」として公表されている企業はZEHの戸建住宅を建てられる企業なのでご注意ください。
ZEHの集合住宅は、分譲マンション・賃貸マンション共にまだ数が少なく、実績のある建築会社は限られています。
ZEH賃貸は戸建よりも建物規模が大きいだけでなく、賃貸用の建物であるがゆえの設計ノウハウが必要とされます。
6.総合的に考えてZEH賃貸はトクなのか?
ZEH賃貸は、初期投資が高めになる代わりに、太陽光発電による売電収入が得られますし、建物性能が高いことで高めの賃料設定が可能です。
ただしZEHはエネルギーを売るのが一番の目的ではありません。
ZEHでは、発電した電力の全量ではなく、入居者がエネルギーを使って余った電力を売電します。昼間に発電した電力は自家消費することで、電気代が高い時間帯に買電せずにすむため光熱費削減に貢献できる仕組みです。
電力の自家消費も関連することから、入居者が発電収入を受け取れるようにした場合、家賃をどこまで上乗せできるのか不明瞭な部分もあります。
太陽光発電設備導入はコストがその分跳ね上がり、長期的な視野をもって回収しなければならないものです。しかし、集合住宅の場合、戸数に対する発電量が確保できないケースや立地等の都合上、発電設備を導入できないケースも考えられます。
物件の競争力を維持するためには、高性能なアパートを目指し、入居者に長く住んでもらうことは重要です。
ZEHの厳しい基準をクリアできなくても、ZEHの良さを取り入れた省エネ住宅にすることで費用対効果を高められる場合もあります。案件に応じた最適な省エネ住宅を検討することが大切です。
詳しいZEH賃貸経営の収益シミュレーションは「HOME4U オーナーズ」を使えば、最大10社から無料で収支プランを手に入れられます。
7.ZEH賃貸で成功するための2つの注意点
メリットの多いZEH賃貸ですが、実際に建てる際には注意点があります。
ZEH賃貸で成功するためのコツをお話します。
7-1.補助金の利用を考える場合は早めに動く
ZEHには補助金制度がありますが、1年を通して申請できるわけではなく、公募期間が決まっていることに注意が必要です。
また、審査があるので申し込めば必ず補助金を受けられるわけではありません。例年、ZEH-Mの申請は5月から6月ごろとなっています。
申請後には間取りや設備を変更できないので、補助金の申請までにプランをしっかり固める必要があります。
今後も同様の補助金制度が続くとすれば、秋から冬にはハウスメーカー選びを開始して、早めに建築プランを具体的に詰めていくことが大切です。
7-2.ZEH賃貸の実績のある企業を選ぶ
ZEH-M建築に力を入れている建築会社・ハウスメーカーは「ZEHデベロッパー」として登録されています。その中でも、ZEH賃貸の実績、ノウハウを持ったハウスメーカーを選ぶとよいでしょう。
ハウスメーカー選びのコツとして、「標準仕様」でも高断熱の高機能な建物を建てているメーカーを選べば、「ZEH仕様」にするためのコストアップを最低限で抑えられます。
大手ハウスメーカーの多くは、建物性能にこだわりを持っており、ZEHプランでなくても気密性・断熱性の高い建物を建てていることが多いので、省エネ仕様にするためのハードルが低いです。
ただし、立地や、敷地の規模・形状によっては、ZEH賃貸が最適とは限りません。
場合によっては、ZEHの良さを取り入れた省エネ住宅にするほうが費用対効果を上げられることもあるでしょう。
アパート・マンション建築を検討している土地に、ZEH賃貸が最適かどうかも含めて適切なアドバイスをしてもらえる企業を選ぶことが重要です。
ZEH賃貸は時代を先取りし、ライバルと差別化できる収益物件です。
建築コストアップを補てんできる補助金をうまく活用するためにも、余裕を持ったスケジュールでメーカー選びを開始し、納得のいく高収益なプランを選び出してください。
そこで、最適な建築プランを選ぶためには、複数の企業の提案を受けて、収益性、省エネ性能、建築コストなどを比較してから決めることが大切です。
建築プランを比較するときに便利なのが、「HOME4U(ホームフォーユー) オーナーズ」です。
HOME4Uを利用すると、建設予定地を入力するだけで、ZEH賃貸や省エネ賃貸住宅に対応できる複数の企業から建築プランの提案を受けられます。
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