この記事では「等価交換によるマンション建て替え」について解説します。
等価交換は建築費の負担がなく、土地オーナーにとってメリットがある手法ですが、不動産ディベロッパーとの共同事業になるため、特有の注意点もあります。
等価交換によって賃貸マンションを建て替える流れ、竣工後の権利形態、床面積の配分の考え方、立ち退きの注意点などを詳しく紹介していきます。
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1.等価交換とは
等価交換とは、土地所有者が土地を出資し、開発事業者(不動産ディベロッパー)がその土地の上に建てる建物の建築費を出資して、完成した土地と建物を出資比率に応じて所有する建築方式です。
(等価交換のイメージ図)
等価交換は、不動産ディベロッパーが建物を建ててくれるため、土地オーナーには建物投資が不要となります。
借入金の返済の心配をすることなく、新しい建物で家賃収入または分譲収入を得ることができるという点がメリットです。
一方で、等価交換を行うと竣工後の権利形態が共有または区分所有となります。
権利形態が複雑化し、全て自分のものではなくなるという点がデメリットです。
また、等価交換は基本的には不動産ディベロッパーからの持ち込みで話が始まるため、良い立地の物件でないとできないという点もデメリットとなります。
2.等価交換によるマンション建て替えの流れ
等価交換によるマンション建て替えの流れは以下の通りです。
(等価交換によるマンション建て替えの流れのイメージ図)
1.【ディベロッパーからの提案】
等価交換は不動産ディベロッパーから提案が持ち込まれることが一般的です。
まずは、条件を聞き出し、悪い話でなければ話を進めてみてください。
2.【基本合意】
大まかな条件が決まったら、基本合意の締結が必要です。
マンション所有者は、これから立ち退きや取壊し等の支出が生じます。
途中で不動産ディベロッパーに逃げられないようにするために、不動産ディベロッパーが契約を解除したときに重いペナルティーを課す基本合意書を締結することが必要です。
3.【入居者募集停止】
基本合意が締結できたら、既存の賃貸マンションの空室部分は新たな入居者の募集を停止します。
4.【立ち退き着手】
立ち退きは、マンション所有者に立ち退き料が発生するため、基本合意が締結された後に着手します。
立ち退き期間は残戸数にもよりますが、1.5年~2年程度の期間を見込んでおくことが必要です。
5.【建物設計】
立ち退き完了まで十分時間がありますので、その間に不動産ディベロッパーとともに建物設計を進めます。
6.【竣工後の権利の協議】
建物設計が完了したら、不動産ディベロッパーとの間で、竣工後の権利形態や取得する床面積の協議を行います。
7.【建築費の見積もり・ゼネコンの決定】
建物設計が完了したら、建築費の見積もりを取得し、ゼネコンを決定します。
8.【等価交換契約】
建築費が確定したら、不動産ディベロッパーと等価交換契約を行います。
9.【立ち退き完了・解体着手】
立ち退きが無事に完了したら、解体に着手します。
解体工事までは土地オーナーの費用負担となります。
10.11.12.【着工・竣工・権利の移転】
更地になった段階で、建物の着工です。
着工からは不動産ディベロッパーに全て任せることができます。
建物が竣工したら、権利を移転し、等価交換事業は完成です。
3.竣工後の権利形態
等価交換では、竣工後にディベロッパーと建物の権利を共有または区分所有で持つことになります。
この章では、竣工後の権利形態の特徴について解説します。
3-1.共有
共有とは、土地オーナーと不動産ディベロッパーが共有持分で1つの建物を持ち合う状態を指します。
共有にすると、建物全体の家賃収入や分譲収入を持分割合に応じて案分することが可能です。
取得した場所によって空室が生じやすい等の不公平が生じないという点がメリットとなります。
また、共有だと還元床面積も計算で求めた割合でぴったり分割できる点がメリットです。
還元床面積とは、最終的に土地オーナーが保有する専有床面積のことを指しますが、詳しくは次章で説明します。
一方で、共有の場合、売却の際、共有者の同意が必要となるため、自由に売却しにくいという点がデメリットです。
特に土地オーナーが個人の場合、相続によって共有者が増えていく可能性があるため、不動産ディベロッパーが共有を望まないことが良くあります。
3-2.区分所有
区分所有とは、構造上区分されている部分をそれぞれが単独所有で保有する形態です。
区分所有の場合、将来、区分の部分をお互い自由に売却できるというメリットがあります。
一方で、還元床面積を理論値でぴったり分割できないため、売買等によって調整が必要となる点がデメリットです。
また、選んだ場所によっては、賃貸しにくい、または分譲しにくい等の不公平が生じることもあります。
4.等価交換による還元床面積の算出方法
この章では、「等価交換による還元床面積の算出方法」について解説します。
4-1.出資比率による方法
出資比率による方法とは、土地オーナーと不動産ディベロッパーの出資額の比率で案分する方法です。
土地オーナーの出資とは、土地を提供する「現物出資」のことを指します。
一般的には、不動産鑑定士に土地の鑑定評価を依頼し、土地の時価を把握して、その時価を出資額とみなします。
出資比率による方法の具体的計算例は以下の通りです。
(条件)
建物の総専有床面積 3,000平米
土地所有者の出資額(土地全体の時価) 3億円
ディベロッパーの出資額(請負工事額) 6億円
(計算例)
土地所有者の取得専有床面積 = 3,000平米×{3億÷(3億+6億)}
= 3,000平米×(1/3)
= 1,000平米
ディベロッパーの取得専有床面積 = 3,000平米×{6億÷(3億+6億)}
= 3,000平米×(2/3)
= 2,000平米
配分する床面積は、延床面積ではなく、賃貸や分譲を行う専有床面積であることがポイントです。
4-2.売価還元による方法
売価還元による方法とは、不動産ディベロッパーが出資した建築費総額と適正利潤の回収に必要な売上高を算定し、不動産ディベロッパーがその売上高を確保できる専有面積を取得するというものです。
不動産ディベロッパーが取得する床面積が確定したら、その残りを土地オーナーが取得します。
この方法は、等価交換事業によって竣工後の建物が分譲マンションとなる場合に用いられます。
売価還元による方法の具体的計算例は以下の通りです。
(条件)
建物の総専有床面積 3,000平米
土地所有者の出資額(土地全体の時価) 3億円
ディベロッパーの出資額(請負工事額) 6億円
ディベロッパーの適正利潤 10%
マンション平均分譲単価(㎡) 60万円
(計算例)
ディベロッパーの必要売上高 = 6億円 ÷ (1 - 0.1)
≒ 6.7億円
ディベロッパーの必要床面積 = 6.7億円 ÷ 60万円
≒ 1,117平米
土地所有者の還元床面積 = 3,000平米 - 1,117平米
= 1,883平米
4-3.竣工後の建物が区分所有の場合は価値も考慮する
出資比率による方法や売価還元による方法では、単純に面積だけを決定することになりますが、竣工後の建物が区分所有の場合は取得する場所の価値の違いも考慮することも必要です。
竣工後の建物がオフィスビルの場合、オフィスビルは階数によって賃料に差はありませんので、単純に面積割りをすることができます。
しかし竣工後の建物がマンションの場合、階数や位置によって賃料や分譲価格に差が生じます。
マンションでは、階数が高いほど賃料や分譲価格が高くなります。
また、同じ階数であってもバルコニーの向きが南、東、西、北向き、もしくは角部屋等で賃料や分譲価格が異なります。
マンションの場合は、全部屋の価値を出し、価値も整合性が合うような形で権利を分けることがポイントです。
5.等価交換事業における立ち退きの注意点
等価交換事業を行うにあたっては、事業の全体スケジュールを計画的に進めていくことがポイントとなりますが、賃貸マンションの建て替えでは、最も予定通りに行かない部分が既存入居者の立ち退きです。
そこでこの章では、計画通りに立ち退きを進めていくための注意点について解説します。
5-1.非弁行為を行わない
立ち退きでは、非弁行為を行わないことが注意点です。
非弁行為とは、弁護士以外の第三者が代理人となって立ち退きのような法律行為を行うことを指します。
日本には弁護士法という法律が存在し、弁護士法第72条には以下のような条文が定められています。
【弁護士法第72条】
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
少し長い条文ですが、簡単にいうと「弁護士以外の第三者が立ち退きをするための代理人にはなれない」ということが定められています。
等価交換は、往々にして不動産ディベロッパーから話を持ち掛けられるものであるため、マンションオーナーの中には立ち退きを不動産ディベロッパーに依頼しようと考える人も多く存在します。しかしながら、不動産ディベロッパーに立ち退きを依頼することは非弁行為に該当するため、できません。
立ち退きは、マンションオーナーが自ら行うか、もしくは弁護士に依頼するしかないので、マンションオーナーは立ち退きのこともよく勉強しておく必要があります。
ちなみに、立ち退きでは立ち退き料が必要です。
弁護士に依頼してしまうと、立ち退き料の他、弁護士報酬も発生してしまいます。
コストを抑え、なるべくスケジュール通りに進めるには、弁護士に依頼せず、マンション所有者が自ら立ち退きを行うことがベストです。
立ち退きは不動産ディベロッパーに頼れない部分ですので、マンションオーナーがしっかり準備して行うようにしてください。5-2.裁判には持ち込まない
立ち退きは、裁判には持ち込まないことがポイントです。
裁判に持ち込むと、明け渡しの強制執行まで2年近くかかってしまいますので、スケジュールが大幅に遅れてしまいます。
また、裁判をしたからといって、立ち退き料が特段安くなるわけではないので、裁判はなるべく避けるようにしてください。
立ち退きは、裁判ではなく、あくまでも双方の話し合いによって解決することが必要です。
仮に裁判を行ったとしても、賃貸人に有利な形で裁判が進むことはまずありません。
裁判は、法律に基づき裁判所が判断を行う場です。
立ち退きの裁判では、裁判所の判断基準は借地借家法がベースとなります。
借地借家法は、借主を守るための法律ですので、借地借家法が土台となると借主が保護されることになり、裁判上、貸主はとても不利な立場となります。
なかなか出て行かない借主に対して、裁判で無理矢理出そうとしても、簡単に退去させることはできません。
すんなりと退去しない借主に対しては、立ち退き料に多少色を付けてでも早期決着することをおススメします。
5-3.定期借家への切り替えも打診する
立ち退きのスケジュールを確定するには、定期借家への切り替えも打診することも一つの方法です。
定期借家とは、更新がなく、契約満了時に確定的に契約が終了する賃貸借契約になります。
定期借家に切り替えることができれば、立ち退き料は発生せず、また退去のスケジュールも確定できるというメリットがあります。
定期借家へ切替える際は、賃料を大幅に減額し、退去時の原状回復も全て免除するなどの特典を与えることがポイントです。
借主によっては、「いきなり出て行け」と言われるよりも、例えば「1年後に出て行ってください」といった方が準備もできるため応諾しやすい場合があります。
そのため、立ち退きに関しては、「定期借家に切り替える方法」と「立ち退き料を支払う方法」の2本立てで交渉することをおススメします。
借主に選択肢を与え、選んでもらうようにすれば、立ち退きも比較的うまくいくものです。
定期借家契約に切り替えられる賃貸借契約は、平成12年3月1日以後に契約されたものだけですので、非常に古い入居者がいる場合には契約日を確認するようにしてください。
店舗や事務所といった住居系以外の賃貸借契約に関しては、契約日に関わらず、普通借家契約から定期借家契約に切り替えることが可能です。
いずれにしても、立ち退きには時間がかかりますので、余裕を持ったスケジュールを組むことがポイントとなります。
まとめ
以上、「等価交換によるマンション建て替え」について解説してきました。
等価交換とは、土地オーナーが土地を出資し、不動産ディベロッパー等が建築費用を出資してその土地の上に建物を建て、竣工後に土地と建物を出資比率に応じて等価で所有する建築方法です。
所有形態には「共有」と「区分所有」がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあるので、よく検討した上で決定するようにしてください。
立ち退きに関しては、「非弁行為を行わない」、「裁判には持ち込まない」、「定期借家への切り替えも打診する」が注意点となります。
等価交換の良い話がディベロッパーから持ち込まれたら、この記事を参考に詳しい内容を確認してみてください。
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