
アパートは一般的にリフォームをしても効果が表れにくくなる築30年ごろになると、アパート建て替えの検討時期を迎えます。
アパートは築年数が古くなると、賃料は下がり、空室も増え、修繕費も増えるなど、基本的に良いことは一つもありません。
一方で、アパートを建て替えると賃料は上がり、空室も改善され、修繕費の発生も無くなります。また減価償却費も計上できるようになることから、節税効果も発生します。
ただ、いざ建て替えようとしても、何から手を付けて良いか分からないという方も少なくないのではないでしょうか。入居者がいる場合には立ち退きも必要になるため、少しハードルが高いと感じてしまっているかもしれません。
そこで、今回の記事では、アパート建て替えの効果や流れ、時期の目安、建て替え費用の目安、立ち退きなど、アパートを立て替えたい大家さんに役立つ情報をわかりやすく解説します。
アパートの建て替えの最大のネックは立ち退きです。アパートを建て替えたい人は、立ち退きを完了させなければいけません。立ち退きについては法律的な知識が必要ですので、少し詳しくお伝えします。
1.アパート建て替えについて
アパートの建て替えの検討時期に入ったら、どのような流れで進むのかを確認して、建て替えが完了する時期から逆算していつに始めるのが最適かを考える必要があります。
ここでは、建て替えの流れとプラン検討の重要性を解説します。
1-1. アパート建て替えの流れ
アパートの建て替えの流れを以下に示します。
- 建て替え後のプラン検討
- 建て替えの決定
- 立ち退き着手
- 立ち退き完了
- 取壊し
- 新築工事請負契約
- 新築アパート着工
- 新築アパート竣工
まず建て替え後のプランを検証することで、建て替え後、具体的にどのような効果が見込めるかを検証します。複数のプランを検証してみて、良いプランがあれば、建て替えをする決定を行います。
建て替えを決定したら、具体的に着手することは立ち退きです。立ち退きに関しては「第4章 立ち退きの手順と注意点」で詳しく解説します。
立ち退きを全て完了したら、取壊して更地にします。同時並行で新築プランを詰め、請負工事会社との請負金額を確定していきます。
請負工事会社と金額が決まれば、請負工事契約を行い、新築工事の着工です。新築工事が竣工すれば、建て替えは完了となります。
次に建て替えプランの検討方法についてご紹介します。
1-2. 建て替え後のアパート建築プラン検討
建て替えを行うにあたっては、まず建て替え後のプランがどのようなものになるか検討することから始めます。
建て替えには、取壊し費用や立ち退き費用が発生してしまいます。そのため、やみくもに建て替えに着手するのではなく、建て替え後のプランがどのようなものになるか、はっきりさせた上で取り掛かることが重要です。
建て替え後のプランについては、いきなり設計会社に頼んでしまうと設計費用が発生します。またハウスメーカーに直接依頼しても活用プランがアパート中心になってしまいます。アパート以外のプランも検討してみたいところです。
最初の段階では、幅広く可能性を検証し、特定の会社に依存しない形で計画を進めることがベストです。最初から1社だけのハウスメーカーや建築会社に依頼してしまうと、後で建築コストを下げるのに苦労します。
建築コストが高過ぎると、途中から他のハウスメーカーや建築会社に話を持ち込むことになります。これは、今まで頑張ってくれた相手を裏切る「嫌な人」を演じるような形になり、とても嫌な気分になります。
そのため最初の段階では、会社は絞らず、複数の会社へ相談することがポイントです。
そこでお勧めなのが「HOME4U(ホームフォーユー) オーナーズ」です。
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取り扱う土地活用のプランとしては、アパートやマンション、賃貸住宅併用住宅などの賃貸住宅の他、駐車場経営、大規模施設(ローサイド経営や福祉施設等)などがあります。
もうアパートには懲りてしまったという方であれば、別の土地活用プランがその土地で有効な可能性もあります。高齢者福祉施設等は、デイサービス、グループホームなどの30年前にはなかったような業態もあります。
住宅系の用途しか建たない土地であっても、アパート以外の賃貸住宅などに建て替えることで収益改善を図ることができるかもしれません。
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建て替え時期を迎えたアパートのその後の道について知りたい方はこちら
2. アパートの建て替え目安
プラン検討が進むと、アパートはどれくらいを目安に建て替えるべきか迷います。
アパートの建て替え目安は、結論から言うと、「稼げなくなったら」行うというのが目安です。稼げなくなる時期は、立地や規模、構造によっても異なります。
以下の紹介するのは、あくまでも一つの目安にしか過ぎません。目安は、物件ごとに照らし合わせて考えることが重要です。
2-1. アパートの築年数
築年数としては、木造アパートなら30年、鉄骨造のアパートなら35年といったところです。建て替え目安は、会計上の法定耐用年数とは関係ありません。
例えば、木造アパートは法定耐用年数が22年ですが、実際、22年を経過してもピンピン稼いでいるアパートはたくさん存在します。
ただ、30年を過ぎると、仕様が時代に合わなくなってきます。例えば30年前はバス・洗面所・トイレが一体型となった3点ユニットが一般的でしたが、今では時代遅れの仕様です。また、和室も最近のアパートでは不必要になっています。
実際に建物が使えたとしても、仕様が時代に合わなくなってくることで、アパートはだんだんと空室が増えてきます。築年数については、仕様のズレを中心に考えるようにして下さい。
また、建て替えにあたっては、借入金は当然に完済している状態が必須です。もし、借入金が残っていて、アパート経営に失敗している状態であれば、建て替えではなく売却を選択するようにして下さい。
2-2. アパートの空室率
空室率の目安としては、80~90%が空室となっていれば、建て替えの目安です。10戸のアパートなら、入居が1~2世帯というイメージです。
「第4章 立ち退きの手順と注意点」で詳細を説明しますが、アパートを建て替えるには立ち退きが必要となります。
立ち退きには、費用と労力を要しますので、できるだけ立ち退きを行う戸数が少ない方が望ましいです。
立ち退きは、失敗すると場合によっては裁判沙汰になります。裁判になれば時間もコストもかかります。立ち退きの相手が多いと、その分、リスクは高まります。
場合によっては、全戸空室になってから建て替えを考えても遅くありません。
仮に5~6割、入居者が入っているような状態で立ち退きに着手するのは、とてもハードです。立ち退きは、「ほとんど空(カラ)」の状態になってから始めるようにして下さい。
以上、ここまでアパートの建て替え目安について見ていきました。
では、建て替えにはいくらくらいかかるのでしょうか。そこで次に建て替えにかかる費用について見ていきます。
アパート建て替えの判断基準について詳しく知りたい方はこちらもご参照ください
3. アパート建て替えの費用と注意点
ここでアパート建て替えまでにかかる費用を時系列で確認します。相場を確認して、資金繰りを検討するための材料としてみてください。
3-1. アパート建て替えにかかる費用
建て替えにかかる費用には、「取壊し費用」、「立ち退き費用」、「新築工事費」の3つがあります。「新築工事費」に関しては、プランや着工時期により異なります。
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取壊し費用については、木造アパートなら坪4~5万円、鉄骨造アパートなら坪6~7万円が目安です。
例えば、2階建で延床面積が100坪の木造アパートがあったとします。この木造アパートの取壊し費用は400~500万円といったところです。
但し、取壊し費用は新築工事費とは異なり、施工条件によって金額が大きく上下します。
例えば、大草原の小さな家のような周囲が広く、重機が入りやすいような物件であれば取壊し費用は安いです。
一方で、狭い道路をクネクネ曲がった団地の奥にあるような敷地のアパートは、ガードマンも複数用意しなければならないため、解体工事費がとても高くなります。
施工条件の悪い物件では、木造アパートの取壊し費用でも坪7~8万円してしまう場合があります。
取壊し費用を下げるためには、必ず複数の解体会社から相見積を取り、交渉して価格を落とすという努力が必要になります。
また、入居者が残っていると、立ち退き費用も発生します。立ち退き費用としては、1戸あたり50~100万円程度です。
引越代と新しい入居先の敷金・礼金等の費用を補填してあげるくらいが一つの目安です。
立退料は、なかなか理屈で求めることができません。法律でも立退料には目安も上限規定もありません。立退料は、お互いの話し合いで決まるものです。
一応、不動産鑑定評価などでは、適正な立退料としては、「今の賃料と移転先の賃料との差額の1~1.5年分を補填するもの」という目安があります。
ただ、この目安を使うと、移転先の賃料が今の賃料と同額であれば立退料はゼロなのかということになってしまいます。
引越先で立退料が変わってしまうのも不合理です。そのため、移転先との差額賃料の補填というのは、あまり目安にはなりません。
実際には、退去や引越に伴う臨時支出を立退料として支払ってあげるというのが現実的です。立退料は、「引越代と新しい入居先の敷金・礼金+α」程度で妥結することを目指しましょう。
以上、ここまで建て替え費用の目安について見てきました。では次に建て替え費用の注意点についてご紹介します。
3-2. 建て替え費用の注意点
建て替え費用には、「取壊し費用」、「立ち退き費用」、「新築工事費」の3つがありました。このうち、「取壊し費用」と「立ち退き費用」は銀行からの融資を受けることができないということが注意点です。
「取壊し費用」と「立ち退き費用」は、自己資金の中から捻出することになります。
例えば、延床面積が100坪の木造アパートで、2世帯が残っていたとします。
取壊し費用に400万円、立ち退き費用に200万円(=100万円×2世帯)かかるとすると、合計で600万円の現金を用意しておく必要があります。現金で負担するには、かなりの金額です。
建て替え費用は、建物が大きいほど、また立ち退き戸数が多いほど、高くなっていきます。
建物の規模については、今さら変えようがありませんので、取壊し費用の削減余地はほとんどありません。一方で、立ち退きについては、戸数を可能な限り減らすことで最小限に抑えることは可能です。
建て替え費用を圧縮していくには、立ち退き費用を抑えることがポイントになります。
取壊し費用と立ち退き費用は融資を受けることはできません。できるだけコストをかけないように注意をしましょう。
以上、ここまで建て替えの費用と注意点について見てきました。アパートの建て替えで最大のボトルネックとなるのは立ち退きです。
そこで次に立ち退きの手順と注意点について解説します。
4. アパート立ち退きの手順と注意点
アパート建て替えで最もデリケートでナーバスな問題は立ち退き交渉ではないでしょうか。ここでは立ち退き交渉を進めるうえで知っておくべき法律を押さえておきます。加えて、手順もしっかり確認しておけば、実際の交渉でも安心です。
4-1. 借地借家法における立ち退きとは
アパート等の賃貸物件で入居者との賃貸借契約を解除することを「立ち退き」と呼ぶことが多いです。賃貸借契約における契約解除と立ち退きは同義と理解してください。
賃貸借契約には、普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。
普通借家契約は、期間の定めのある建物の賃貸借契約で、契約の更新があるという特徴の賃貸借契約です。
それに対し、定期借家契約とは、期間の定めのある建物の賃貸借契約で、かつ契約の更新がない賃貸借契約のことを言います。
普通借家契約は、契約期間が満了すると借家人(借手)が契約を更新したいと言えば、契約を更新することができます。
それに対し、定期借家契約では、契約期間が満了する際、借家人(借手)が契約を更新したいと希望してもできない契約です。
アパートのような住宅の賃貸借契約の場合、普通借家契約で契約をしていることが多いです。
普通借家契約では、借主の立場が強力に守られているため、賃貸人から契約を解除したいといっても、簡単にすることはできません。
借地借家法では、借手の立場が強力に守られており、賃貸人からは契約を簡単には解除できないようになっています。
具体的には、普通借家契約における立ち退きに関する規定は、以下のように定められています。
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
少し長い条文ですが、ポイントは「財産上の給付」と「正当の事由」という点です。
財産上の給付とは、いわゆる立退料のことを指します。正当の事由とは、退去を申し出るにあたっての正当な理由のことです。正当事由とも呼ばれます。
この条文は、平たく言うと、「賃貸人から立ち退きを申し出る場合は、ちゃんとした理由があることと、立退料を払わないとダメですよ」ということを言っています。
アパートを建て替える場合、入居者を立退かせなければいけません。その立ち退きには正当事由と立退料が必要になります。
では正当事由とはどのような理由が正当事由として認められるのでしょうか。そこで次に正当事由について見ていきます。
4-2. 正当事由とは
結論からすると、「古くなったアパートを建て替えたいから出ていってください」という理由だけでは正当事由にはなりません。正当事由としては不足しています。
正当事由とは、正式には借家契約の存続期間が満了する1年から6ヶ月前における更新拒絶の通知または解約の申入れに必要な要件を指します。
賃貸人(貸主)は、正当事由が具備されていなければ、更新拒絶の通知または解約の申入れをすることができません。
つまり、正当事由がなければ、「退去してください」と言うができないというのが借地借家法の規定です。
正当事由の判断要素として、借地借家法第28条は以下の4つの条件を掲げています。
- 建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況及び建物の現況
- 財産上の給付
まずこの中で最も重要視されるのが「建物の使用を必要とする事情」です。賃貸人(貸主)が自分で使う必要性があるかどうかという点が大きなポイントとなります。
このように貸主が自分で使う必要性を「自己使用の都合性」と呼んでいます。正当事由があるかどうかは、まず自己使用の都合性があるかどうかを軸に判断されます。
アパートを建て替えたいという理由は、自分で建物の使用を必要とする事情ではありません。
つまり単純にアパートを建て替えたいという理由は、自己使用の都合性が低いため、正当事由としてはとても弱いことになります。
但し、正当事由の判断要素に「建物の利用状況及び建物の現況」というものがあります。
これは「建物の使用を必要とする事情」くらいには重要視されませんが、正当事由があるかどうかの判断基準の一つになります。
「建物の利用状況及び建物の現況」のなかで、「建物の現況」という言葉があります。
これは、例えば建物が耐用年数を過ぎており、腐朽、破損が甚だしく、早晩朽廃を免れない場合には、「建物の現況」に照らし、正当事由が認められると解されています。
つまり、法律上は、超ボロボロで今にも壊れそうな建物であれば、借主に対し「退去してください」と言えるということを言っています。
しかしながら、実際には「超ボロボロで今にも壊れそうなアパート」というのは少ないと思われます。現実的には、超ボロボロではないけれども、古いから建替えたいというレベルの建物がほとんどです。
日本の建築術は高いため、木造アパートでも築30年を超えてもボロボロにはなりません。このような建物は、朽廃にやや遠い建物と表現されます。
建物が朽廃にやや遠い場合には、正当事由として認めるために立退料の提供が考慮されます。
つまり、「古くなったアパートを建て替えたい」というだけでは理由として弱いため、「立退料も提供したら正当事由として認めてあげますよ」と解釈されています。
正当事由は、自己使用の都合性のような理由がないと、基本的には認められません。
正当事由として弱い理由の場合には、立退料をセットで提供することで、正当事由として認めてもらうことになります。立退料とは、不足した正当事由を補完するための材料と言うことになります。
以上のことから、アパートを建て替えで賃借人(借主)との契約を解除する場合、原則としては立退料が必要になります。
「古くなったから建て替えたい」という理由だけでは正当事由として弱いため、正当事由を補完するために立退料が必要になるのです。
以上、ここまで「正当事由とは」について見てきました。
では、具体的に立ち退きはどのように進めていけば良いのでしょうか。そこで次に立ち退きの流れについて見ていきます。
4-3. 立ち退きの流れ
立ち退きについては、少し面倒臭いと思っている方も多いと思います。できれば誰かに依頼したいところですが、立ち退きは、原則、賃貸人本人がやらなければいけない業務です。
ここで立ち退きの流れをまとめました。
自分で交渉を進める場合はこのような流れで進めます。
もし、自分以外で頼むとしたら、弁護士に依頼するしかありません。例えば弁護士以外の管理会社などに頼むことはNGになります。
弁護士法第72条には、以下の条文が定められています。
弁護士でない者は報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
「何のこっちゃ?」と思っている方も多いと思います。
これは、平たく言うと、賃貸借契約の契約解除のような行為は、弁護士以外の人が代理人としてやってはいけないということを弁護士法という法律で規定しています。
つまり、立ち退きに関しては、「本人」もしくは「弁護士」しかできないということです。この弁護士法に違反した行為を非弁行為と言います。
例えば、良くあることですが、建物オーナーの中には、管理会社に対して「立ち退きをやっておいて」と頼む人がいます。
管理会社は立ち退きを代理で行うことは非弁行為であるため、管理会社に依頼しても100%断られます。立ち退きを管理会社が代理で行うことは、非弁行為に該当するためです。
弁護士に依頼するととても費用がかかります。そのため、立ち退きは本人が行うということが基本です。
まずは、アパートの立ち退きは賃貸人(貸主)が自分でやらなければならない業務であることを認識する必要があります。
次に立ち退きの方法です。立ち退きの方法には2つの方法があります。
1つは、ストレートに賃借人に立ち退きを打診する方法です。この場合、必ず契約解除を通知する旨の書面を合わせて提出することがポイントです。
立ち退きは、後々裁判になる可能性もあります。そのため、きちんと申し入れた証拠を残しておくことが重要です。書面には日付を記入し、コピーを取って控えておきましょう。
書面で申入れをした後は、「ざっくばらん」に賃借人(借主)と話すことが重要です。
賃借人(借主)との関係が良好であれば、多くの場合、すんなりと退去を了承してもらえることが多いです。
了承を得るポイントとしては、「退去まで十分な時間を設けること」と「立退料を支払う意思はあること」をきちんと示すことです。
退去までの時間は、最低でも半年以上は確保してあげましょう。基本的には、なるべく揉めないように「お願い」のスタンスで臨みます。
古いアパートには、一人暮らしの高齢者が残っていることが多いです。高齢者は、周辺のアパートの賃貸情報を知りません。
高齢者が引越しやすいように、近くのアパートで今よりも家賃の安い物件等の情報を提供してあげると話が進みやすくなります。
このようにストレートに立ち退きを打診する方法は、立退料は発生しますが、合意を得られれば解決の時間が最も早い方法です。
多くのアパートの建て替え現場では、このような賃貸人自らによる立ち退きを打診する方法が採用されています。
アパートの場合、賃借人(借主)との関係が良好であれば、基本的に立ち退きは上手くいっているケースが多いです。
2つ目の方法としては、今の普通借家契約を定期借家契約に切り替える方法があります。
アパートのような居住用の建物では、普通借家契約が平成12年3月1日よりも後に締結されたものに関しては、定期借家に更改することができるとされています。
平成12年3月1日以前に締結した普通借家契約であれば、定期借家契約には切替られないため、話し合いによる立ち退きしかありません。
普通借家から定期借家に切り替えることができれば、立退料は発生しません。定期借家への切替は、店舗のような立退料が法外となるような物件の場合に良く用いられる手法です。
アパートの場合、話し合って解決してしまう方が早いため、使われるケースは少ないです。
入居者の方も、「1年後に絶対出ていってください」と言われるよりは、「100万円払うから出てもらえませんか?」と言われた方が受け入れやすいという傾向もあります。
定期借家に切り替える場合には、定期借家の契約期間の分だけ、建て替えを先延ばしにすることになります。定期借家の期間としても1~2年が目安になります。
立退料は支払わなくて済みますが、立ち退き完了までの期間が長くなるというデメリットがあります。
定期借家に切替る交渉期間も必要となりますので、まずはストレートに立ち退きを打診する方法を優先的に考えることをお勧めします。
以上、ここまで立ち退きの流れについて見てきました。では立ち退きではどのようなことに注意をして進めて行けば良いのでしょうか。最後に立ち退きの注意点についてご紹介します。
4-4. 立ち退きの注意点
立ち退きを実施するにあたり、注意したいことは、ズバリ「裁判は避ける」ということです。
立ち退きでは、賃借人と揉めてしまうと、最悪裁判に発展しかねません。裁判は、時間もお金もかかりますが、裁判を避けるべき理由はそれだけではありません。
裁判というのは、法律に照らし合わせて判断を下します。照らし合わせるのは「世間の常識」ではなく、「法律」です。
ここで、注意したいのが、立ち退きの裁判で、司法が判断の根拠とする法令は借地借家法という点です。
借地借家法は立法趣旨が「借家人保護」のための法律であり、守られるべきは賃借人(借主)であるという考えに基づいています。
そのため、例えば賃貸人(貸主)から裁判を起こしたとしても、司法は賃借人を擁護する立場になって判断を下します。
立ち退きの裁判では、争点となるのは立退料の多寡です。
例えば、賃貸人が立退料は50万円と希望して、賃借人が立退料は300万円と要求した場合、立退料の判断は賃借人の主張である300万円に近い額で判決されるような傾向があります。
判決は、世間の常識からみてどうかは別です。法律の趣旨は賃借人保護であるため、法律の観点からすると賃借人の主張の方が守られるべきものと解されてしまうのです。
つまり、賃借人と賃貸人で裁判をした場合、賃貸人の立場は弱いということを理解しておく必要があります。
裁判をしたとしても、賃貸人にはほとんどメリットがありません。時間やお金がかかるだけではなく、賃貸人の主張も通りづらい状況にあるため、裁判をしてしまうと労多くして実り無しの状態になります。
そのため立ち退きをする場合は、可能な限り話し合いで解決するように心がけるということがポイントです。
裁判になったら必ず後悔します。
裁判になる前にお金で解決するよう、穏便に話をまとめるように注意してください。
まとめ
いかがでしたか?アパートの建て替えについて見てきました。
建て替えには取壊し費用や立ち退き費用等が発生しますので、建て替え後のプランをしっかりと計画してから着手することが重要です。
建て替え後のプランについては、HOME4U オーナーズを使って納得のいくまでプラン検証をしてください。色々なプランが検討できるというメリットがありますので、可能性を広げるためにも、ぜひご利用ください。
建て替え後の青写真が描けたら、次は立ち退きです。立ち退きは、建物オーナーが自ら行うべき仕事です。この記事を参考にして、より良いアパートの建て替えを実践してみてください。
この記事のポイント まとめ
アパート建て替えは次のような流れで進めます。
- 建て替え後のプラン検討
- 建て替えの決定
- 立ち退き着手
- 立ち退き完了
- 取壊し
- 新築工事請負契約
- 新築アパート着工
- 新築アパート竣工
詳細は「1.アパート建て替えについて」でご確認ください。
アパート建て替えの目安は築年数で計る場合、構造で異なります。
- 木造:30年
- 鉄骨造:35年
その他、空室率を目安とすることもあります。
アパート建て替えの目安について詳しくは「2.アパートの建て替え目安」で解説しています。
アパート立ち退きでは次のような手順で慎重に進めなければなりません。
- 立ち退きの経緯を書面で伝える
- 口頭で立ち退きの説明
- 立退料の交渉
- 退去手続き(立ち退き料支払い)
それぞれにとりかかるべき時期などは「4.アパート立ち退きの手順と注意点」をご確認ください。
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