土地活用の中には土地を貸す借地事業の選択肢もあります。借地事業は、収益性は低いですが、建物投資が不要な分、リスクが低く手間もほとんどかからないというメリットがあります。
ただし、損をせずに土地を貸すにはある程度の法律の基礎知識が必要です。
従来、一度土地を貸すと土地が戻ってこないという問題がありましたが、それは普通借地と呼ばれる形態の借地をした場合です。
現在では定期借地制度がありますので、定期借地を利用すれば土地が取られるというような心配は無用となります。これから土地を貸すのであれば、定期借地をおススメします。
そこでこの記事は、初めて土地を貸す人向けに、借地の法律的な基礎知識について解説します。最後までお読みいただき、土地を貸す際の参考にして頂けると幸いです。
1. 借地事業とは
借地事業とは、土地を貸して地代を得る事業です。それに対して、借家事業は、建物を貸して家賃を得る事業になります。
土地オーナーがアパートを自ら建てて貸すことは、借家事業に該当します。借地事業は土地を貸すだけのため、建物は借地人(土地を借りる人)が建てます。
借地事業のメリットとデメリットをまとめると以下のようになります。
メリット
- 収益が安定している
- 建物投資が不要である
- 手間や費用がほとんどかからない
デメリット
- 収益性が低い
- 長期間土地利用の制限を受ける
- 相続対策の効果が薄い
借地事業は建物投資が不要で、安定した地代収入を得られるというメリットがあります。
また、建物所有者ではないため、修繕も行う必要がなく、建物の固定資産税や保険料、維持修繕費等の費用も発生しません。借地事業の費用は土地の租税公課(固定資産税および都市計画税)のみとなります。
一方で、地代は家賃と比べると低いため、借地事業の収益性は低いです。また、一度土地を貸してしまうと、長期間、借地契約に縛られます。
さらに、借地事業は相続対策効果が薄いです。借地をすると土地の評価額は下がるものの、評価額が実勢価格よりも高く評価されてしまいます。
そのため、本来の財産価値よりも多くの財産を持っているような状態で相続税が計算されてしまうため、相続対策効果は薄くなります。
借地では税金に関する質問も多いので、ここでは借地をした場合の消費税と固定資産税の取り扱いについてご紹介いたします。
(1) 消費税
土地を貸した場合の地代には、消費税は発生しません。建物が居住用であっても、事業用であっても、地代には消費税はかからないというのが結論となります。
家賃なら、アパートのような居住用の場合には消費税はかからず、店舗や事務所等の事業用の場合には消費税がかかります。
家賃のルールとよく混同されるのですが、地代の場合は建物の用途が何であっても消費税はかからないことになります。
一方で、時間貸駐車場などで土地を貸した場合、消費税が発生することがあります。土地オーナーがアスファルト舗装して貸すと、アスファルト舗装をした施設を貸しているという解釈となり、消費税が発生します。
それに対して、土地オーナーがアスファルト舗装をせずに貸すと、土地を貸しているという解釈となり、消費税は発生しません。
いずれにしても、土地を貸す場合には消費税はかからないということになります。
(2) 固定資産税
土地の固定資産税は、借地であっても土地の上に何が建っているかによって変わります。
土地をアパートやマンションの様に住宅用の土地として貸すと、住宅用地の軽減措置が適用され、固定資産税が下がります。
一方で、土地を店舗等の住宅以外の用途の土地として貸すと、軽減措置がないため、固定資産税が下がることはありません。
借地上の建物は、他人が建てた建物ではありますが、借地人が何を建てるかによって、土地所有者の固定資産税が変わるという仕組みになっています。
地代を固定資産税の3倍というような決め方をしている場合には、建てる建物の用途によって地代収入が大きく変わることになります。
2. 借地契約には2種類ある
借地契約には普通借地と定期借地の2種類があります。この章では普通借地と定期借地の違いについて解説します。
2-1. 普通借地契約
普通借地とは、建物所有を目的とした借地で、定期借地以外の借地のことを指します。野立て看板や駐車場などの一時的な土地利用に関しては、一時使用のための賃貸借という扱いになり、普通借地には該当しません。
借地借家法でいう借地は、あくまでも借地人の建物所有を目的に設定した借地が対象となります。
普通借地は契約期間が最低30年とされ、これより短い期間を定めて契約しても、契約期間は30年となります。30年よりも長い契約期間を定めることは自由です。
普通借地では、契約期間満了時、「更新」があるのが最大の特徴です。
普通借地権は、借地人に極めて有利な契約であり、借地人の権利が強く守られています。土地オーナーから借地契約を解除するには、正当事由と呼ばれる理由が必要です。
正当事由とはどうしても土地を必要とする強い理由です。正当事由がなければ借地契約の更新拒絶はできず、契約は更新され続けます。
また、普通借地は地代も低廉な場合が多く、定期借地に比べると収益は低くなります。普通借地の地代は住宅などの借地では固定資産税の3倍とするようなことも多く、収益性は極めて低くなります 。
2-2. 定期借地契約
定期借地とは更新の無い借地契約であり、契約終了時に借地契約が確実に終了する借地契約のことを指します。定期借地は比較的新しい制度であり、1992年(平成4年)より制度が開始されました。
元々、借地契約は明治や大正時代には、土地オーナーの権利が強く、借地人の立場が弱い契約でした。
ところが、戦時中、借地人の立場が弱いと出兵した兵士が戦地から戻ったときに借地契約が終了して住む家がなくなって困るという問題がありました。
当時の政策として、安心して戦地に向かわせたいという思惑があり、1941年(昭和16年)に借地人の権利を強化してできたのが今で言う普通借地になります。
しかしながら、戦後も当時の法律が残ったままであったことから、平和な時代なのに借地人の権利が強過ぎて、今度は土地を貸してしまうと二度と戻ってこないという問題が生じてしまいました。
バブル時代には土地が不足していたのにも関わらず、借地すると戻ってこないことを恐れ、余っている土地でさえ貸さないという状況が発生しました。
社会的にも借地借家法の見直しが要請された結果、1992年(平成4年)に登場したのが定期借地権制度になります。定期借地権は、土地オーナーのために作られた制度といっても過言ではありません。
定期借地権ができたことにより、土地活用の選択肢の一つに借地事業ができたということになります。
これから借地による土地活用を行うのであれば、定期借地を選択すべきです。定期借地権は、国が土地オーナーを救済するために作ってくれた制度ですので、土地を貸すなら必ず定期借地を選択するようにしましょう。
3. 普通借地で土地を貸すと取られるのと同じ!?
普通借地では、一旦土地を貸すと取られるのと同じと揶揄されています。実際にはその通りであり、普通借地を設定してしまうと、土地は半永久的に戻ってきません。
普通借地で土地オーナーから契約更新を拒絶するには正当事由が必要となります。正当事由がなければ契約は自動で更新されます。
また、正当事由があっても、借地人からの更新請求や契約終了後に借地人が土地を使用し続けていることに対し、土地オーナーが異議を述べなかったときは契約が更新したものとみなされます。
さらに正当事由が認められたとしても、借地人には土地オーナーに対して建物の買取請求権というものが存在します。
借地人が建物買取請求権を行使すると、土地オーナーの同意がなくても、当然に売買契約が締結されたことになり、借地人は代金を受け取るまで建物の明け渡しを拒むことができるという権利があります。
少しややこしいですが、簡単にいうと、土地オーナーからは簡単に契約更新の拒絶ができないということです。
法律上は、借地人が手厚く保護されているため、一度土地を貸すと「取られる」のと同じという事態に陥ります。
土地オーナーにとっては、普通借地があまりにも不合理であるため、土地オーナーの利益にも配慮して作られたのが定期借地制度になります。
4. 定期借地権には3種類ある
定期借地権には、「一般定期借地権」、「建物譲渡特約付借地権」、「事業用定期借地権」の3種類があります。この章ではそれぞれの定期借地権の概要について紹介します。
4-1. 一般定期借地権
一般定期借地権とは、最低借地期間を50年以上とし、建物の用途を問わない形式の定期借地権になります。契約の更新はなく、契約終了時は更地で返還されます。
一般定期借地権は、期間が長く、建物用途も自由であることから、マンションの土地の権利などに利用されているケースがあります。
定期借地権付きマンションは、土地の権利が所有権ではなく、一般定期借地権になっています。
例えば、東京湾の埋立地は、土地を県が所有していることが多いです。湾岸エリアに建っているマンションは、県から土地を借りて、その上にマンションが建っていることがあります。
定期借地権付きマンションは、埋立地のような湾岸エリアに比較的多く見られる権利形態です。
4-2. 建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは、借地権設定後30年以上を経過した日に借地権の目的である建物を土地オーナーが買い取ることで借地が終了する形式の定期借地権です。
土地オーナーが建物を買い取りますので、土地も建物も全て土地オーナーの所有物となり、借地関係はなくなります。建物譲渡特約付借地権は、倉庫や工場などで、たまに利用されることがあります。
ただし、借地契約は確実に解消できるものの、土地オーナーにとっては築30年以上の古い建物を買い取らなければならず、ほとんどメリットがありません。
そのため、定期借地権の中でも建物譲渡特約付借地権は、一番利用されていない定期借地権となっています。
土地オーナーとしては、建物譲渡特約付借地権は選択肢から外して考えるので良いでしょう。
4-3. 事業用定期借地権
事業用定期借地権とは、もっぱら事業の用に供する建物の所有を目的とした定期借地権になります。一般定期借地権と同様に、契約の更新はなく、契約終了時は更地で返還されます。
借地の存続期間は「10年以上30年未満」、または「30年以上50年未満」になります。
「10年以上30年未満」とした場合、「更新」と、「建物再築に伴う存続期間の延長」、「建物買取請求」の3つは問答無用で不可の契約になります。
それに対して、「30年以上50年未満」とした場合、「更新」と、「建物再築に伴う存続期間の延長」、「建物買取請求」の3つに関しては特約が有効になるという契約です。
事業用定期借地権は、建物の用途が事業用に限定されているという点が特徴です。事業用とは、店舗や事務所、工場、倉庫、ホテル等の用途を指します。
賃貸アパートや分譲マンション、賃貸マンション、老人ホーム等は居住用の建物であるため、事業用定期借地権を利用することはできません。
5. 土地を貸すなら事業用定期借地権がおススメ
定期借地事業をするなら事業用定期借地権がおススメです。
定期借地権の中で建物譲渡特約付借地権はおススメできないため、実質的には一般定期借地権または事業用定期借地権の2択になります。
一般定期借地権は、借地期間を50年以上としなければなり、土地オーナーにとっては借地期間が長過ぎます。それに対して、事業用定期借地権なら借地期間を比較的短くすることができます。
また、事業用定期借地権は事業者が借地人となるため、地代の支払い能力が高いです。事業用定期借地権の年間地代は更地価格の6%程度とすることもできるため、借地事業の中でも収益性をかなり高くすることができます。
借地期間が短いことと、収益性が高いことから、土地を貸すなら事業用定期借地権が最もおススメとなります。
まとめ
いかがでしたか。
土地を貸すことについて解説してきました。
借地事業は、借家事業に比べると収益性は低いものの、安定性があり、リスクは低いというメリットがあります。建物投資も不要で、借入金の返済や修繕費用の増加等の懸念も少ないのが特徴です。
借地契約には、普通借地と定期借地の2種類があります。普通借地は更新があり、定期借地は更新の無い契約です。
普通借地で土地を貸すと、土地を取られるのと同じような状況が発生しますので、土地を貸すのであれば定期借地を利用することをおススメします。
定期借地権には、一般定期借地権と建物譲渡特約付借地権、事業用定期借地権の3種類があります。
個人が行う借地事業としては、賃貸期間や地代等のバランスから、事業用定期借地権が一番メリットはあります。事業用定期借地権の話があれば、積極的に検討するのが良いでしょう。
この記事のカテゴリトップへ