この記事では、「アパートの耐用年数の意味や構造別耐用年数」、「耐用年数が過ぎたらどうなるか」、「耐用年数を過ぎても収益を出し続ける方法」についてお話ししています。
アパートの耐用年数とは?
耐用年数とは一般的にその物品の寿命を指すこともありますが、アパート経営では「法定耐用年数」を認識しておく必要があります。
アパートの法定耐用年数とは、建物の減価償却費を計上できる期間と同義です。
アパートの構造別の耐用年数はどのくらい?
アパートの法定耐用年数は構造によって変わります。
- 木造:22年
- 木造モルタル:20年
- 鉄骨造:19年~34年(骨格の厚みで変わる)
- 鉄筋コンクリート造:47年
アパートの耐用年数が過ぎたらどうなる?
減価償却ができる法定耐用年数が過ぎるとアパート経営では次のような局面を迎える懸念があります。
- 税金が高くなる
- キャッシュフローが悪化する
原因は、税金の取り扱いとローンの関係です。
耐用年数を過ぎても稼ぎ続けるためにできることは?
耐用年数が過ぎてもアパート経営はできます。長く収益を上げ続けるには建築時の判断が大切です。
- 質の高い建物を建てる
- ローンの返済期間を耐用年数以内とする
耐用年数が過ぎたアパート「建て替えるべき?」「そのまま経営するべき?」
詳しい解説は以下
目次
1.アパートの法定耐用年数とは?
法定耐用年数の本当の意味、そして減価償却期間との関わりなどについて解説していきます。
1-1.(法定耐用年数は)実際の建物寿命より短い
一般的に、建物の寿命は法律で定められた「耐用年数」よりも長持ちします。
「法定耐用年数」は実際の建物寿命とは異なり、法律上の概念にすぎません。
本記事で解説する「耐用年数」は、この「法定耐用年数」のことを指します。
法定耐用年数は昔の建築技術を前提に定められた年数ですので、設定された当時は建物寿命と近いイメージの年数でした。
しかしながら、現代の建築技術は100年建築といった言葉も登場してきており、実際に建物が使える年数は長寿命化しています。
実際の建物寿命は、もはや法定耐用年数以上に長いことが一般的です。
そのため、ほとんどのアパートは耐用年数を超えても全く使えますし、使っても問題ありません。
現代の法定耐用年数は、使用に耐えうる期間ではなく、単なる会計上の減価償却を計算する期間に過ぎないのです。
1-2.減価償却費を計上できる期間
法定耐用年数とは、「減価償却費を計上できる期間のこと」と捉えてよいでしょう。
減価償却費は、建物の資産価値を耐用年数内で少しずつ減らすために生じる「会計帳簿上の概念としての費用」であり、実際に手元からお金が出ていくわけではありません。
建築の初期投資で発生した支出を「耐用年数内で費用として配分したもの」が減価償却費になります。
例えば、木造アパートを4,400万円で建てた場合を考えます。
木造アパートの耐用年数は22年です。
減価償却では、ざっくり言うと4,400万円を22年間にわたり毎年200万円ずつ費用とするような会計上の手続きを行います。
減価償却費の存在がアパート経営にとって重要と言われるのは(お金の支出こそは無いものの)、会計上の費用ではあるため、「帳簿上の利益を小さくする効果がある」からです。
税金は、帳簿上の利益が多いほど多く課せられます。
したがって、減価償却費の分、帳簿上の利益が小さくなれば支払う税金を圧縮できるのです。
2.アパートの構造別耐用年数
アパートの法定耐用年数は、建物の構造によって決まります。
構造 | 耐用年数 |
---|---|
木造 | 22年 |
木造モルタル | 20年 |
鉄骨造(3mm以下) | 19年 |
鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 |
鉄骨造(4mm超) | 34年 |
鉄筋コンクリート造 | 47年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
耐用年数は建物の構造が堅牢なものほど長くなる傾向があります。
一般的に、アパートの構造は「木造」または「軽量鉄骨造」が主流です。
木造であれば耐用年数は22年となります。
一方で、軽量鉄骨とはあいまいな表現であり明確な定義はありません。
一般的には鉄骨の厚さが6mm未満のものを軽量鉄骨とすることが多いですが、鉄骨の厚さが4mm未満のものを軽量鉄骨と呼ぶこともあります。
軽量鉄骨よりも厚い鉄骨造のことを重量鉄骨と呼びます。
耐用年数は、アパートローンが組めるローン期間にも関係します。
多くの銀行は、アパートローンの融資期間を耐用年数以内としていることが通常です。
例えば、木造アパートであればローンが組める期間は22年までとしています。
銀行で組めるローンの期間にも影響してきますので、特に軽量鉄骨や重量鉄骨でアパートを建てる際は、ハウスメーカーに鉄骨の厚さを必ず確認するようにしてください。
3.耐用年数が過ぎたらどうなるか
「耐用年数が過ぎた後に起こること」数十年単位の長期間でアパートを経営する上では必ず知っておくべき知識ですので、この章でご説明いたします。
3-1.税金が高くなる
耐用年数を過ぎると減価償却費が計上されなくなるため、税金が高くなります。
個人が行うアパート経営では、税金は不動産所得に対してかかります。
不動産所得の計算式
不動産所得 = 収入金額 - 必要経費
「収入金額」は主に賃貸による家賃収入を意味します。
礼金や更新料を徴収している場合もこの収入金額に含まれます。
必要経費は、固定資産税や建物の保険料、修繕費、管理費などで、ほかに減価償却費も含みます。
ここでは固定資産税や建物の保険料、修繕費、管理費等の実際に支出される費用を「その他の費用」とし、税金と利益の関係をイメージしやすくするための図を以下に示します。
減価償却費がなくなると、不動産所得(利益)が大きくなるため、税金が大きくなってしまいます。
木造アパートであれば、築22年目と23年目では大きく税金が異なるということです。
一方で、収入に関しては築22年目と23年目ではほとんど変わらないのが一般的です。
そのため、耐用年数の満了前後では、収入は変わらないのに税金だけが途端に増えるという現象が生じます。
耐用年数が過ぎても外見上の見た目は変わりませんが、会計上の中身は大きく変化することになります。
3-2.ローン返済によりキャッシュフローが悪化する
アパート経営は、アパートの耐用年数を過ぎるとキャッシュフローが悪化するという性質があります。
キャッシュフローとは経営上実際に動くお金の流れのことで、不動産業界では「お金の流れを経た最終的な手残り」という意味が含まれることもある言葉です。
アパート経営では通常、「利益」と「実際の手残り」が異なります。
ローンの元本返済額がある分、オーナーの手元に入った家賃収入のうち手元に残るお金が減るからです。
ローン返済額(元本のみ)は支出を伴いますが、利益を小さくしてくれる費用にはなりません。
なぜなら、お金の貸し借りは「会計上の損益」ではないためです。
お金を借りた際、借りたお金が売上として課税されないことと同じです。
借りたときに課税しなかったのだから、返したときも節税できないという仕組みとなっています。
キャッシュフローの計算式
手残り(キャッシュフロー) = 総収入 - その他の費用 - 税金 - 借入金(ローン)返済額
ここで、耐用年数が満了した後にも借入金(ローン)の返済が残っている場合の利益と実際の手残りの変化を下図に示します。
耐用年数満了後は税金が増えるため、この時点に借入金(ローン)の返済額が残ってしまっていると、大きくキャッシュフローが悪化することが分かります。
ローンを耐用年数以内で完済すれば、その後のキャッシュフローの悪化を防ぎ、手元に残るお金を最大化することができます。
耐用年数を過ぎてもしっかり稼げるアパート経営シミュレーション
4.耐用年数を過ぎたアパートで収益を上げ続けるには?
耐用年数を過ぎ、減価償却を計上できなくなった後でも継続的に収益化するための方法についてお話しします。
4-1.「資産価値向上のための大規模修繕」を実施する
・大規模修繕がおすすめ
たとえ法定耐用年数が過ぎ、減価償却費を計上できなくなった場合でも、建物の寿命を延長するための「資産価値向上のための大規模修繕」を実施すれば、修繕のためにかかった費用は減価償却費の計上が認められます。
「資産価値向上のための大規模修繕」とは、「建物の資産価値向上、あるいは耐久性を高めるために行う修繕」を意味します。
大規模なリフォームにより古くなった箇所や外観を修復することができれば、入居率の向上や家賃収入アップにもつながるので、法定耐用年数の終了後も収益をあげ続けるうえで有効な手段です。
収益物件としての価値向上にあわせ、減価償却が可能になれば一石二鳥、キャッシュフローの大幅な改善も期待できます。
・「修繕費」になると減価償却はできない
「資産価値向上のための大規模修繕」は、通常の維持・管理にかかる「修繕費」とは区別されます。
「修繕費」は「通常の維持・管理のためのメンテナンスコストや、壊れた箇所の現状復帰のための修理費用」を意味します。
つまり、「資産の価値を向上させるための工事」か、あるいは「現状維持・現状復帰のための工事」かによって、「資産価値を高めるための大規模修繕」として「資本的支出」と見なされるか、単なる「修繕費」と見なされるかが異なってくるのです。
「資本的支出」と見なしてもらうためにはいくつかの要件を満たす必要がありますが、工事にあたって「資本的支出」の要件を満たすため工夫することは、アパートオーナー自身には難しいのが実際のところです。
4-2.借入金ローンの返済期間を耐用年数以内とする
耐用年数を過ぎた後も継続的に収益を得るうえでローンの返済期間を耐用年数以内とすることが重要です。
アパートローンを組む際、以下の2つを意識する必要があります。
- 毎年の返済額を「減価償却費以内」とする
- ローンを組む期間を「耐用年数以内」とする
減価償却費以内とローン返済額は相反する性質があります。
減価償却費以内は支出を伴わないにもかかわらず費用となるため、節税に効果を発揮します。
一方で、ローン返済額は支出を伴うにもかかわらず費用とはならないため、節税効果がありません。
したがって減価償却費以内とローン返済額を同額にすることによって、税引き後の「利益」と「支出」を相殺し、キャッシュの流出を最小限に抑えることができます。
5.安心して相談できるアパートメーカー・建築会社を選ぶためのポイント
信頼できるハウスメーカーを選ぶための基準・準備すべき項目について記します。
5-1.評判・口コミ
ハウスメーカーの評判や口コミについては、インターネットを活用することによって業者の立場から独立した中立な意見を拾うことができます。
特に近年では、通常のGoogle検索の他に、SNS上で情報を探すことによって「生のユーザーの声」を見つけやすくなっているので、ぜひご活用ください。
5-2.担当営業者の質
たとえ優良なメーカーであっても担当者の質が低いと、契約上のトラブルなどが発生するかもしれませんし、あなた自身の要望をきちんと反映してもらえない可能性もあります。
実際に担当者と話した際に違和感を感じたなら、担当者を変えるか、別のメーカーに変えてしまうことも一つの手です。
5-3.アフターメンテナンス
一度建築したり建て替えたアパートとは、数十年という長い期間付き合って行くことになります。
したがって、「工事が完成すればゴール」ではなく、継続的なメンテナンスが必要です。
法律上は、住宅メーカーが「10年間の最低保証を付ける」ことが義務づけられています。
しかし、10年間という期間は法律上の義務がある最低限の期間なので、それ以降はメーカーによって対応の差があります。
各メーカーのフォロー体制を事前に調べて、長期間のアパート経営を安心して任せられるメーカーを探しましょう。
「建て替えプラン」を厳選した大手アパートメーカー
この記事を書いた専門家
(株)グロープロフィット 竹内 英二不動産鑑定士事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役を務める。不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
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